『ふたり、幸村』 山田正紀 徳間書店

陳舜臣の『秘本三国志』のあっと驚く謎の解決方法を更に捻った大傑作。実にして虚、虚にして実、仁にして義にして礼にして智にして信、軍師小説の最高傑作宮城谷昌光の『晏子』にも匹敵する大傑作。SF作家でもある正紀にしか考え付かない地球規模の凄いトリ…

『恐喝―シンガポールウインク』 ロス・トーマス 立風書房

本作の主人公は元スタントマンの中古車販売業者、敵はマフィアと思わせて、もちろん国家権力のスパイ組織も敵。 主人公の父が超一流スタントマンで主人公はスタントの英才教育を受け、12歳で車の運転を、14歳で飛行機の操縦を覚えて、ハリウッドNo1のスタン…

『ポークチョッパー:悪徳選挙屋』 ロス・トーマス 立風書房

本作の主人公は労働組合委員長。敵は大統領直属の謎の組織。委員長の選挙戦をリアルに描写したかったらしく、ロス・トーマスお得意の複雑でイリーガルな謀略戦が発動するのが遅く(殺し屋は最初から登場してるけど)、これはロス・トーマス作品としてはやや劣…

『可愛い娘』 ロス・トーマス 立風書房

民間人(本作は新聞記者)が政府権力(本作は上院議員)の陰謀に立ち向かうという、いつもの非国民作家ロス・トーマスの魅力爆発の作品である。主人公は食う為に新聞記者しているが、夢は歴史家、大学教授であり、探偵としての調査能力は抜群であるが、武力は0。…

『ディーン牧師の事件簿』 ハル・ホワイト 創元推理文庫

「プロローグ」 「足跡のない連続殺人」 「四階から消えた狙撃者」 「不吉なカリブ海クルーズ」 「聖餐式の予告殺人」 「血の気の多い密室」 「ガレージ密室の謎」21世紀に甦った黄金本格推理とマンセーするべきだが、本格推理としては無駄な人間描写が私…

『美しい蠍たち』 山田正紀 トクマ・ノベルズ

蠍のような毒婦たちの騙し騙され殺し殺されのコンゲームデスゲームユーモアミステリ。セリフのある登場人物は全て女という、男無視の痛快なノワールとも言える。男よりお金が好きな峰不二子タイプばかりが熾烈に知恵を巡らせる謀略小説とも言えます。ミステ…

『音もなく少女は』 ボストン・テラン 文春文庫

本書のベストセリフ「あなたはまだ二十四でしょ?大事にしなくちゃならない真実なんて、あなたの人生にはこのあともいやになるほど残ってるわよ」もう一丁行くぜ!「ふしだらな女は当然の報いを受ける。だから、彼らはそんな嘘を利用したのよ。なぜなら、この…

『砂のクロニクル』 船戸与一 新潮文庫

本書のベストセリフ「何が望みだと?個人的な利益なんか考えるわけがない!」サミルかっこええよ、サミル、(;´Д`)ハァハァ。 凄いドラマツルギーの傑作。会話はへたというか、行数稼ぎの疑問詞の合いの手が多くて鼻につくが、予定調和にならない怒涛のストーリー…

『犬の力』 ドン・ウィンズロウ 角川文庫

本書のベストセリフ「魂など救済せんでよろしい!メキシコ人を救済しなされ!」もう一丁行くぜ!「算術こそが紛れもない宇宙の法則である。数学的な証明だけがただひとつの証明である」ミステリだが本格推理ではなくて、文学寄りのノワール。 過去形を使わず現…

『赤い矢の女』 山田正紀 徳間ノベルズ

密室での人間消失で始まるので本格推理かと思ったら、パズラー度は薄い感じで、トラベルミステリーというか、サスペンスですな。日本国内ウロウロするだけでは、凡百のトラベルミステリーだが、天才正紀なので、下巻はソ連国内へ!取材に基づくリアルなソ連国…

『探偵稼業はやめられない』 マイクル・コナリー他 光文社文庫

1「フォト・フィニッシュ」 サラ・パレツキー(V・I・ウォーショースキー)(Photo Finish)2「空の青 (シエロ・アズール)」マイクル・コナリー(ハリー・ボッシュ)(Cielo Azul)3「スカーレット・フィーバー」 ジャン・グレープ(ジェニー・ゴードン&C…

『ダック・コール』 稲見一良 ハヤカワ文庫JA

珠玉のハードボイルド冒険メルヘン短編集。「密猟志願」が一番のお気に入り。 10歳の天才密猟少年に弟子入りした中年男の物語。普通の作家なら作家を投影していると思われる中年男が自分で 様々な密猟テクニックを発明する話になるだろう。作家自身にも主人…

『46年目の光―視力を取り戻した男の奇跡の人生』 ロバート・カーソン NTT出版

本書のベストセリフ「こんなことを言う女は、私が歴史上はじめてかもしれないけど、運転の仕方を夫に批評されるのって最高ね」なぜならば夫は46年間失明していたから!批評される行為、批評する能力の存在のありがたみに気付かず打たれ弱い人は、五感全て持っ…

『ファイナル・オペラ』 山田正紀 早川

ナヨナヨした美少年が三人も出て来るジェンダー観も素晴しい21世紀の本格推理小説。3.11以後に書かれた為か、純粋の知的ゲームに徹しきれず、罪なき子供が災害や戦争で殺される事への正紀の憤りが透けて見えて、ちょっと重くてエンタメとしては爽快感にやや…

『真鍮の評決 リンカーン弁護士』 マイクル・コナリー 講談社文庫

本書のベストセリフ「その情報を与えることはできないが、容易に想像できるだろう」読む楽しみを奪ってはアカンので、詳しい情報を与えることはできないが、うっとおしい文学ではなくて、本質はエンタメの本格推理作家のコナリーなので、面白いことは容易に…

『離散系の数学 (コンピュータサイエンス大学講座)』 野崎昭弘 近代科学社

30年前に大学テキストとして書かれた本で、練習問題が豊富(答えだけで16Pもある)なので、数学パズル本として楽しく読める。巡回セールスマン問題や一筆書き問題も出て来ます。大学生向けだが、整数論、代数学、グラフ理論がメインなので、中学生でも解ける問…

『素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~』 ジョン・ダービーシャー 松浦俊輔訳 日経BP 

wikiでも直ってないリーマンの論文名の昔の誤訳の定訳「与えられた数より小さい素数の個数について」が、 「与えられた量より小さい素数の個数について」と正しく訳されているのが素晴しい!連続する変化量を扱わない離散数学である数論に、解析学の概念を導…

『天動説〈2 蝦夷伝奇編〉』 山田正紀 カドカワノベルズ

天保時代で開幕したこのシリーズだが、なんと、明治時代、日露戦争秘話として閉幕。吸血鬼と戦い続ける一族の話だとして落ちました。 正紀版ジョジョの奇妙な冒険だったのか!?漫画や映画のお約束を破り、超絶能力対超絶能力にはならず、吸血鬼に対して駆逐艦…

『天動説〈1 江戸幻想編〉』 山田正紀 カドカワノベルズ

大江戸ヴァンパイア小説。 4つの短編のオムニバスである。 ヒロインに思われた美少女が呆気なく死ぬのはさすが正紀。 主人公は鉄太郎かと思ったら、主馬が主役張る話もあって、二人主人公かと思ったら、主馬はなんと! 次巻が楽しみである。天動説〈1 江戸幻…

『二流小説家』 デイヴィッド・ゴードン 早川ポケミス

21世紀の新世代作家として、ジェンダー観が素晴しい。 主人公の中年作家探偵が2回も女装する素晴しさ! 作家が主人公という事で、小説論や芸術論も語られるが、共感出来る良い論旨であった。 序盤テンポが遅いが、終盤のドンデン返しの嵐は見事。 最後のペー…

『πの話』 野崎昭弘 岩波現代文庫

野崎先生が総和級数(繰込み理論)を間違えていてアレっ?と思ったら、文庫化前の単行本は30年以上に出版されてました。この文庫版では最後に書き足して間違いを訂正しておられます。 書き足すのではなくて書き直して過去の間違いを隠蔽しない野崎先生の真摯な…

『キール港の白い大砲』 ダグラス・リーマン ハヤカワ文庫NV

本書のベストセリフ「おれに必要なのは犬だけだ」 「女は?」 「ああ、たぶんいつかは」口とペニスしかない野蛮な男が大好きなセクス=愛を揶揄し、犬に象徴される友情、遊び心をマンセーした戦争文学。ナチドイツ降伏で物語りは始まるので戦争冒険小説ではあ…

『幽霊軍団 (スーパーカンサー③)』 山田正紀 徳間

シリーズ最終巻の最後の最強最悪の敵は、大日本帝国復活を夢見る、元関東軍参謀が組織した私兵軍団、大日本帝国の亡霊、幽霊軍団である。軽い軟派なアクションSFとして開幕した本シリーズだが、やはり反日正紀の本領発揮、大和魂やら愛国心やらを空疎なもの…

『超人軍団 (スーパーカンサー②)』 山田正紀 徳間

今作の敵はバットマンとワンダーウーマンとスパイダーマン。アメコミファンのマッドサイエンティストが造った超人軍団である。アメコミのような軽いノリでサクサク読めるが、超蟹男としてついに武器の鋏が登場するが、結局敵の超人三人を主人公は一人も倒せ…

『フランケンシュタイン 対決』 ディーン・クーンツ ハヤカワ文庫NV

序盤(1巻)は大期待させ、中盤(2巻)で中だるみして、終盤(3巻)呆気ないクーンツのよくあるパターンになってしまったが、この巻は全5巻(6巻以降も有り得るが)の内の3巻なので、見捨てるのは早いですぞ諸君。フランケンシュタイン博士の倒し方がショボ過ぎて見…

『心に響く三国志: 英雄の名言』 渡辺精一、南岳杲雲 二玄社 

三国志オタクには有名な名セリフばかりが登場するが、 渡辺精一先生の解説は、詩心溢れる韻の解説もあって、 とても楽しくて参考になります。「破竹の勢い」が「破木の勢い」でなくて、 何故「破竹」なのかの必然性の解説が素晴しい。 「破竹の勢い」の進撃…

読書メーターまとめ

11月の読書メーター読んだ本の数:3冊読んだページ数:673ページナイス数:23ナイスジーヴズの事件簿―大胆不敵の巻 (文春文庫)恋愛ネタのドタバタコメディが多いこのシリーズだが、今巻は禁断の宗教ネタやっていて大満足。牧師の長説教を賭けの対象にした競…

『ラテンアメリカ五人集』 集英社文庫

本書のベストセリフ「見捨てる きみの肉体を 風の家を」by オクタビオ・パス。 パス目当てで買ったのだが、『鷲か?太陽か?』読んでるので、「青い花束」と「正体不明の二人への手紙」は既読だったが、未読だった「白」がどえりゃあ凄いです。この詩に触れた…

『寄り道の多い数学』 大沢健夫 岩波科学ライブラリー

反クロネッカーの数学史的にはよくある啓蒙パズル本。 2/3ほどは有名な問題ばかりで、コアな数学マニアには物足りないかも?著者は中高生を読者として想定して書いたらしいから、お子様を数学オタクにする入門書としてはいいかも?現実の身近なもの(列車内から…

『ジーヴズの事件簿―大胆不敵の巻』 P.G.ウッドハウス 文春文庫

恋愛ネタのドタバタコメディが多いこのシリーズだが、今巻は禁断の宗教ネタやっていて大満足。牧師の長説教を賭けの対象にした競馬ミステリパロディの最初の話に拍手喝采した。お馬鹿な愛すべきイギリス貴族のご主人様のギャンブルに策を授けるスーパー執事…