『ダック・コール』 稲見一良 ハヤカワ文庫JA

珠玉のハードボイルド冒険メルヘン短編集。

「密猟志願」が一番のお気に入り。
10歳の天才密猟少年に弟子入りした中年男の物語。

普通の作家なら作家を投影していると思われる中年男が自分で
様々な密猟テクニックを発明する話になるだろう。

作家自身にも主人公にも浅ましい名誉欲が感じられない
爽やかな優しさに満ちたハードボイルドである。

ハードボイルドというものは、都会が舞台になることが多いが、
本書は、都市生活者の孤独や苦悩を嘲笑う田舎派ハードボイルドなのがレアで素晴しい。

鳥が必ず物語に絡むが、様々な動物との触れ合いが心温まる。

漁船が転覆しマレーシア沖を一人で漂流する(摑まる板もなし)「波の枕」は自殺希望者は参考にするべし。

家の中で首吊るのはもったいない。

大自然の中にいれば動物が助けてくれるかもしれませんわよ。

ハードボイルドというものは、酒飲んで煙草吸って女犯して車かっとばして銃撃って殺人してと、欲望の限りを尽くす幼稚な男が主人公になることが多いが、
それでも美学を持った痩せ我慢の紳士みたいに描写される事もあるが、凡百のハードボイルドの主人公達の苦悩や誇り矜持は、
本書の主人公達に比べると、あまりにも視野狭窄でレベルが低いと言わざるを得ない。
他人の評価を気にした見せかけの美学ではない、本物のかっちょええ生き方が本書には描かれています。

武道の黒帯なのにワザと白帯を締めるかっちょええ男も出て来ます。

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)