『海賊とよばれた男』 百田尚樹 講談社

出光興産の創業者をモデルにしたノンフィクションノベルだが、感涙のエピソードの連続。私利私欲を求めず、国家国民の為に、政治家も軍人も官僚も大企業も敵に回す主人公が凄い。今年のNO1本に決定。

GHQにも逆らってGHQを感心させて味方にした日本人って出光佐三だけでは?
首切りしない家族主義は経営の神様松下幸之助もそうだったと思うが、松下は公職追放令におとなしく従ったよね。

どんな強大な敵にも正論で立ち向かい、負けて会社が倒産したら個人財産全て処分して退職金捻出して、自分は乞食になればいいと覚悟して4時間睡眠で頑張る佐三凄い。

今年のNO1本。

物語は1945年8月15日、敗戦で海外拠点を全て失い、国内にも売れる石油0の仕事出来ない状態から始まる。

仕事ないので重役は社員のリストラを提言するが、
佐三は1000人いる社員一人も首切らないと宣言する。
せめて能力の少ない若手社員だけでも首にするべきと重役は突っ込むが、
社員は家族と思ってる佐三は、
貧乏だからと幼い我が子を捨てる親が居るか!
と一喝!!
売る石油が無いならなんでもいいから仕事を見つけろ!
と石油販売会社の筈の出光は、農家の手伝い、漁師の手伝い、ラジオ修理屋と、ほんとに何でもやって生き延びる。

1000人分の仕事はすぐに見つからないから、
自宅待機の社員が大量に発生するが、
雇っているだから、佐三は自分のコレクションの芸術品を処分して、
給料を捻出し、自ら列車に乗って社員に手渡しにいく。 

ラジオ修理には経験者が必要。
元海軍の通信兵を大量に雇うことになる。

会社の規模は大きくなるが、新しい仕事に新しい人材を増やしては、
仕事の無い社員の数はあんまり減らない。

基本的に出光の拡張はこの路線の繰り返しみたいですな。
ピンチにチャンスを掴み拡大するが、安定せず、更なる拡大を必要とするパターン。

出光の歴史は社員5人の個人商店から始まるが、
社員が1000名越えても、佐三は社長と名乗らず、
店主と社員に呼ばせる理由に気付いた時、
人格障害者のサイコパスの出版界の敵の私の目から大粒の涙が零れました。

初心忘れるべからずとか、そんな単純な理由ではない。
佐三は独立前は社員3人の個人商店の番頭だった。
神戸高等商業(神戸大学の前身)の同期は、三井物産とかの大手商社に入社したが、
独立して自分の理想の大地域小売業を実践する予定の佐三は、
敢えて独立しやすい零細企業の入社試験を受けた。

正確には大企業にも利点はあるかと、
当時は三井物産より大きな業界NO1の鈴木商会の入社試験も受けていたのだが、
NO1商会の採用通知より零細商店の採用通知の方が先に来たので、
佐三は零細商店の店主にお世話になりますと挨拶した後だった。
学友は零細企業断って大手に行くべきだと助言するが、
お世話になりますと挨拶した後に断る事は出来ないと、
佐三は零細商店に就職する。

大八車に灯油缶を積んで配達する佐三の丁稚生活が始まる。
街中で三井物産に就職した同級生に出会い話すと、
彼が動かしている商品は自分の20倍。
多過ぎてもちろん自分で納品作業なんて出来ない。
配達業者を手配するだけだと背広の彼は自慢する。
佐三はその日配達が終わってもすぐには店に帰らなかった。
深夜暗い気持ちで店に帰ると、
店に明かりがついていて、店主は伝票計算していた。

ああ駄目、涙でもう書けない。
作者は泣きながらこの本を書いたそうであるが、
貴方も必ず泣きます。

単純な、お涙頂戴物語ではなくて、
山本五十六元帥を化学の知識の無いアフォと糾弾する、
理系の冷徹さもありますので、
誰が読んでも楽しめる本です。

経済トリックで商品を値下げする方法や、
ライバル社と全く同じ商品で値下げ不可能な場合に、
商品に付加価値を付ける化学トリックも出て来ますので、
実践的なビジネス書としても参考になります。

恋愛小説としても最初の妻との離婚の理由が泣けます。

エピソード詰め込み過ぎで、個々のエピソードの描写が物足りない、
粗筋読んでいるような箇所もあるが、
無駄な描写が多いよくある小説ではなくて、
ノンフィクションノベルなので欠点ではなくて長所だと思いなせえ!

歴史人物は同じキャラを別人が書いてもOKなので、
そのうち全10巻ぐらいで出光佐三の物語書く人出てくると思います。

1953年、世界を植民地化し原住民を奴隷にし自国の資本家のみの栄達を謀る悪の資本主義帝国大英帝国は、政権が変わり国有宣言されたイランの油田の所有権を主張しペルシャ湾を封鎖。

取引したイタリアタンカーを拿捕、石油を回収し、全世界にイランの油田は発見して開発したイギリスのものだと宣言する。

国際裁判所の審理が揺らぐ中、イギリス軍艦に撃沈される可能性にびびり、世界の石油会社はタンカーをイランに送るのを停止。

イランは世界一の油田を持ちながら石油の買い手が付かず困窮していく。イランを追い込んでイランがソ連に泣きついてイランが共産主義国家になることを恐れたアメリカ政府は、同盟国イギリスに明確に敵対出来ない為、秘密工作を画策。

イランを救える石油会社は出光しかないと判断し、エージェントを日本に派遣。

イギリスの老獪な情報操作にイランは悪と思っていた出光だったが、
独自の調査により、イランは正義と確信した出光はタンカーを出す!

武装の日本のタンカーがイギリス軍艦を出し抜き無事に石油を日本に運べるのだろうか?

完全に冒険小説謀略小説のノリである。
これが史実とは出光凄過ぎる!

で出光のタンカーの船長は第二次世界大戦で2回撃沈された経験を持つが、
軍人より徴用された民間船の方が死傷率高かったと述べ、
大日本帝国海軍大日本帝国陸軍も、優遇された戦場で戦った甘ちゃんだと認識してるのがナイス!

小物の軍人や政治家はダメポ、有能な民間人が世界を救うという素晴しい話である。

『解錠師』 スティーヴ・ハミルトン 早川ポケミス

本書のベストセリフ

「美術学校へ行くとどうなるか知っているか?
きみには生まれながらのすばらしい技法がある。精巧な描写力がね。やつらはそれを叩きつぶす。きみの力に圧倒されるあまり、キャンバスに絵の具を猿みたいに投げつけろと命じるんだ。卒業するころには、高校生に美術を教えるしか能がなくなっている。
いいこともある。きみはたぶん、女とやりまくるだろう」

アカデミズム批判の傑作。自称芸術家の男は女目当てのケダモノと揶揄した傑作。

美術の才能もある金庫破りを主人公にした文学寄りのノワールで、小技はあるがミステリとしては並。

ご都合主義がちょっと気になる。
巧いんだけど、頭のみで考えて作った嘘くささを感じる。

カメラのような記憶力を持ってるのに、自宅に泥棒が入った事はないと嘘つくのは何故?店舗は家ではないという認識か?
自身も錠前破りの泥棒みたいなもんだから、泥棒が泥棒に入られるのは恥だと思う思考も予測出来るが、この時は犯罪組織に入る前なので、
自宅の酒屋に強盗が入った事あります。
他人が不法侵入してくるのは怖いです。
被害者のあなたの痛みは理解出来ます。
反省してます。
と伝えれば心象がよくなって、
保護観察下における、拷問みたいなプール作成作業を回避出来たのでは?

で、炎天下の作業だが、家の外にある水道の蛇口から水飲んで冷たいような描写があるが、水道管も暖められていて生暖かい水しか出て来ない気もするんだが?
作者、炎天下の肉体労働本当にしたことあるのか?
ラブレター代わりの絵を背中に隠して持ち込むのも、
汗でベショベショになる気もする。

泥棒時代に警報機の赤外線センサーを誤魔化す為に、室内暖房を体温近くにまで上げるというトリックも出てくるが、暖房が止まるとみるみるうちに室内温度が下がり、
赤外線センサーに識別される危険が出て来るのもなんか嘘くさかった。

恋愛小説青春小説として細かいことは気にしなければそれなりに楽しめますが(笑)

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

『鋼の魂 僕僕先生』 仁木英之 新潮社

僕僕先生シリーズ6作目。今回久し振りに僕僕が男に変身して萌えた。月の女神嫦娥の再登場も嬉しい。嫦娥の部下の蛙の妖怪の准遼が可愛くてタマラン。う〜ん癒されます。ヒロインは准遼にして僕僕は美少女に変身するのは止めて欲しい(ごめんなさいごめんなさい)。

まあ、萌え作品と思わせて今回けっこう重い話である。首に鎖繋がれる奴隷になっても生き延びよ!という生命賛歌の素晴しい話である。

雲南国(正確には六国に分裂している)を攻めようとする唐とチベットの陰謀に僕僕一行が巻き込まれる話だが、雲南のリーダーは神官でありながら、神の力は利用せずに人間として努力しようとする魅力的な人間。

唐の圧倒的軍事力の前に、雲南の湖に眠る太古の神を巨大ロボット兵器として復活させざるを得なくなるが、正義の理念(イデ)を実体化(オン)させるのは、僕僕ではなくて、弟子の劉欣。操縦するのは、雲南のサブリーダー。

純粋防衛反応で復活する神であるが、戦争する人々の狂気は、イデオンを汚染しイデオンは暴走する。イデオンを止めるのは誰か?という話です。(ちょっと違う)

主人公の筈の王弁は今回も何もせずに、ギャグメーカーとして人々に笑いを与えるのであった。次回はチベットのラサへ医学修行なので、王弁の登場が増えるのを期待する。

鋼の魂―僕僕先生

鋼の魂―僕僕先生

『虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか』 リチャード・ドーキンス 早川書房

どの本でもグールド批判があるのがドーキンスだが、これは酷い。グールドを疑似科学者、文が巧いだけのサイエンスライターとコケおろしています。

まともな進化論学者はグールドの説なんか支持しないが、進化論全面否定の聖書原理主義者とグールドは戦ってくれるので、一応、進化論学者の仲間として、グールドを叩きのめすのは遠慮しているそうです(笑)

進化淘汰圧を受ける存在→遺伝子=ドーキンスVS個体=グールド、進化の頻度→漸進的=ドーキンスVS跳躍的+停滞的=グールドであるが、私はグールド信者である。化石証拠はグールド有利だよね。

ドーキンスは自分に有利な化石証拠が見つかっていない事を、グールド説を支持する化石の発見を差置いて、グールド説は発見されてない化石に基づいて組み立てられていると、トンデモナイ論理の摩り替えをしてます。

グールドを反証するのなら、ドーキンスに有利な発見されてない化石をドーキンスが発見してからするべきだと思うが、
ドーキンスは本物のエリートの自分の理論は証拠が無くても正しいと思い込んでるとんでもなく増長した人格障害者である。

ドーキンス量子力学も完全理解の一歩手前にいると自画自賛してます。
自分が絶対に正しいと思い込んでるムカツク文体に耐えられないので、
ドーキンスはもうポイします。

科学啓蒙書として超常現象のトリック暴きや錯覚のネタもあるが、
20世紀に書かれた本なので、今では誰でも知ってるネタが多く、
21世紀の今読む必要はありません。

ゲノム解析利己的な遺伝子論が危うくなって、
本書では協調する遺伝子論も超利己的なDNA論も出て来るのは笑った。

ドーキンスの学説は物理的な証拠に基づかない単なる解釈だからどうでもいいよな。

進化論者でありながら、生物は進化してもしなくてもOK、
それどころか、生命が発生したのは不幸な事故だと言うグールドの方がかっちょええよな。

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか

『問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ』 春日武彦 光文社新書

良いとされる男性的ジェンダーを躁病と揶揄する傑作。

男性的とされる能動性外向性行動力自信を持ってテキパキと判断する資質って、実は躁病と同義。
人間の精神はうつが基本。
精神病はうつ病→躁病と悪化していく理論に大納得しました。
躁病の気質が必要な職業、アーティスト、クリエイター、政治家は、
平たく言えばみんなキチ○イである。

自分の事だけでなくて、他人も配慮するのが普通の正常の人間。
自分が世界の中心で目立てないと駄目だと思うのは、き○がいですよ。

躁病の作家の事例(幸田文中島らも等)も出てくるので、
文学ファンにも楽しく読めると思います。

基本的に三面記事を賑わした犯罪者から躁病と推理される事例を検証してます。
放火犯には躁病は居ないという説明がとても判り易い。
躁病なら消防士に向かって、
「ドヘタクソ、俺が消火してやるから、ホースをよこせ!」
と怒鳴るそうです。
悪化してると火事場に乱入して人命救助のヒーローになる可能性もある。
きち○いの論理で動いているのに、政治家やクリエイターが英雄視されることもあるように、
軽い躁病は本人にも周りにも良い結果をもたらす事があるから怖い。

あなたの会社のやり手社長は実は躁病かもしれませんよ、ガクガクブルブル。

問題は、躁なんです   正常と異常のあいだ (光文社新書)

問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ (光文社新書)

『夜明けのパトロール』 ドン・ウィンズロウ 角川文庫

21世紀の新シリーズなので、ジェンダー観が進化しており素晴しい!主人公はサーファー探偵だが、実は恋人の方がサーフィンの能力が高い。女に負けても恥とも屈辱とも思わず女を支援する主人公がかっちょええ!

恋人がプロサーファーに成れるかの重大な日に、海で支援せずに事件解決に勤しみ泥まみれ血塗れになるのもナイス。重傷を負わされても、主人公は悪党を殺さず自首させるのも素晴しい人権意識でグッド。

タイムトラベルしてアドルフ・ヒトラーを殺すチャンスがあっても、殺すかどうかは保留するという主人公の倫理観はナイス。
でも、ザ・ビーチボーイズのデビュー前にタイムトラベル出来たら、躊躇いなく殺せるそうですw
ザ・ビーチボーイズはサーファー文化を金儲け主義で汚染した元凶らしい。

前半はサーファーネタがメインで事件はあんまり進展しないが、
運痴の私でもサーフィンしたくなるほど魅力的に書かれています。

主人公はドーンパトロールという男4人女1人のサーフィンチームを作っているが、
女だけのレズだけのサーフィンチームも登場するし、
主人公がホモに「ちんぽしゃぶってあげようか?」と軟派されるシーンもあるし、
ウィンズロウの欠点はジェンダー観が古臭い事だと思っていたが、
本作は本当に進化していて素晴しいです。

で、主人公チームのメンバーは全員個性的で魅力的だが、
足指が12本あるミュータントもメンバーにいるのは、
ミュータントがワサワサ出て来る布石みたいで超期待。
2作目は手が3本のサーファーが出て来たり、
鰓呼吸するサーファーが出て来ると期待してます。

白土三平の忍者かよ!

白土三平を越える肉体を持つ山田風太郎の忍者みたいなキャラが出て来る可能性もありますよね(笑)

『感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性』 高橋昌一郎 講談社現代新書

序盤の、無意味な数字に引きずられて不合理な判断してしまうアンカリング、
脳の中に心(判断システム)は二つ(利己的遺伝子に有利に働く心と個体に有利に働く心)ある。
との話題に引き込まれて一気読み出来るが、
限界シリーズの最後を飾るには、ネタが残っていない(前2作のネタも再考してます)せいか、
期待が強すぎたのでちょっと期待外れ。

決定論者も自由意志論者も納得出来る柔らかい決定論の考え方は良かった!

前2作に比べるとやっぱりちょっとセンスオブワンダーが薄い。
元ネタを先に読んでいたせいか、今回はこれに示唆される読みたい本が見つからなかった。

高橋先生のまとめ力は相変わらず天才的で、
苦労して読んだダニエル・C・デネットの『解明される意識』が
物凄く判り易く簡潔に紹介されていて唖然とした。

元ネタ知らない人は読みたくなる元ネタの本がいっぱい出て来るだろうが、
実は高橋先生のまとめ力が凄過ぎるので、元ネタの本読んでもコスパの面で損したと感じるかも(笑)

もっと芸術ネタの話の解析をして欲しかった。絶対音感や絶対色感、芸術家に精神薄弱や人格障害者が多いのは何故かなどを追求して欲しかった。

ラマチャンドランの神経美学を構築してくれるかと期待していたが、美学、芸術論は少なくて残念。

パネラーに芸術史家がいないのが解せない。高橋先生が一人であらゆる学問のパネラーを演じる限界を感じた。