『魔境物語』 山田正紀 徳間文庫

魔境物語 (徳間文庫)

魔境物語 (徳間文庫)

まぼろしの門」
「アマゾンの怪物」

どちらも大長編に、特に2個目はシリーズ化も可能な設定だが、

中編として軽く投げ捨ててしまう、正紀の天才性には畏れ入る。

荒山徹にアイデア売って続きを書いて貰いたいw

アマゾンの怪物に敢然と立ち向かうペルー柳生の物語を読みたいww

『天の筏』 スティーヴン・バクスター 古沢嘉通 訳 早川文庫

天の筏 (ハヤカワ文庫SF)

天の筏 (ハヤカワ文庫SF)

重力定数が10億倍の宇宙に迷いこんだ宇宙船乗組員の末裔たちは、
呼吸可能な大気に満たされた〈星雲〉で生き延びていた。
彼らは宇宙船の残骸である円盤状の筏〈ラフト〉を中心にして社会を形成し過酷な環境に耐えてきたのだが、
〈星雲〉の寿命が残り少なくなったいま、人々の命運も尽きようとしている…。
この危機を打開すべく、勇気と好奇心にあふれる少年リースの冒険が始まった。

というのが公式な紹介文です。

まず、重力が10億倍ではなくて、重力定数が10億倍という設定が面白い。

そこから別宇宙を計算しただけのハードSFとも言えるが、

少年の成長物語として読んでも、感動出来ます。

社会維持の為に、自分の嫌いな人物の命も、

自分の命を賭けて助けるまでに成長していくリースが感動的。

ハードSFとして計算間違いがあるのかどうかはよく判らない。

自由落下状態(無重力状態)でズボンの裾が動く描写がなんか、

重力なのか潮汐力なのかいまいちはっきりしなくてひっかかるのですが、

問題ありませんよね?

バリバリのハードマニアの人の検算を求む。

『フラックス』 スティーヴン・バクスター  内田昌之 訳 早川文庫

フラックス (ハヤカワ文庫SF)

フラックス (ハヤカワ文庫SF)

冒険小説の冒険の舞台の広がりを求めてとしてのSFもある。

ヴェルヌは、地底、海底、月へと舞台を広げていった。

で、本書はもっともスケールの<小さい>大冒険物語である。

数ヶ月かけて冒険旅行して移動した距離は、たったの1メートル!

ただし、主人公達は、中性子星に住む、身長10ミクロンの宇宙人であるがw

地球上の生物は、化学反応で命を維持するが、

陽子と電子が高重力でみんな中性子に圧縮されてしまう中性子星では、

そもそも、化学反応が発生しない。

核反応ベースの生命という、凄いネタをバクスターは提示します。

肉体は異質すぎるがメンタリティは地球人と一緒。

何もかも異質だったら、小説にならないので仕方ないが、

メンタリティが地球人と同じ理由を私は発見しました。

この小説の宇宙人は、自然発生した生命体ではない!

地球人が造ったロボット生命体、ナノマシンだと思います。

その根拠は、彼らの食べる食料にある。

中性子星には、彼らがおいしく感じるのだが、

エネルギー発生量がゼロの「植物」が生えているという描写がある。

生命体がおいしく感じるのは有益な物質でなければならない。

まずく感じるものは食べてはいけない毒である。

栄養価ゼロの食べ物をおいしく感じる生命が、種族として生き残るのは不自然である。

ロボット生命であるからこそ、地球人が安全システム「セネカ」として、

そういう設定をしたに違いない。

最後まで地球人は登場しないが、地球人の存在を暗示する、

謎の巨大な椅子がある空間は出てきたよね。

私の素晴らしい発見へのツッコミキボーン!

『虚空のリング』 S・バクスター ハヤカワ

虚空のリング〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

虚空のリング〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

虚空のリング〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

虚空のリング〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

コンピュータ内の仮想空間に投影される為に、

1日で1年成長する肉体を持って生まれたリゼール。

たった3ヶ月で老婆になり死ぬ運命の彼女の少女時代は、

友人を作っても数日で外見も知識も変化し、

友情を育てる事も出来ず、

自分の死後の世界となるコンピュータ内の空間で、

自分でデザインした1000×1000ものグリッドを持つゲームを

ソロプレイして遊ぶ。

死後、コンピュータ内で500万年生きた彼女の

遊び相手になってやりたいと思った。

『過ぎ去りし日々の光』 アーサー・C・クラーク&S・バクスター 冬川亘 訳  ハヤカワ

過ぎ去りし日々の光〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

過ぎ去りし日々の光〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

過ぎ去りし日々の光〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

過ぎ去りし日々の光〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

この二人が合体するとは凄い!

とSFファンなら誰でも胸ときめかせて、

どんな感動を与えてくれるのかと、狂喜したと思うが、

合体したら弱くなったという非常識なユニットです。

スローガラスネタを科学的にハードにして発展させたのだが、

ポッと出の新人ならともかく、この二人の名を冠するには低レベル過ぎる。

クラークのワースト3(火星の砂・地球帝国・リーとの合作もの)よりは上だが、

バクスターとしてはワースト1である。

小説としてキャラは立っているので、それなりに読めるが、SF者の琴線には触れない。

もっと壮大な結末を用意して欲しかった。

社会と人間の意識を変える大発明をして、そのテクノロジーを広めるのが、

民間企業であり、政治業者より、民間人の方が賢いという視点はいいと思うが、

ベットシーンあり、路上ストリップする14歳の少女ありの、

受けを狙った姑息な萌え萌え作品である。

SFが提示する新しい性欲処理の方法に興味ある人は、妄想のネタとしてどうぞ読んで下さい。

究極の覗き盗聴の新発明品の物語です。

エロを提供出来るハードだと、科学技術製品は爆発的に普及するというのはリアルだけど、

志しの低い夢で白けるねえ。

もちろん、エロ以外にも宗教を退治するのにも使うのはいいが、

エロエロ以外の使い方の提示が物足りない。

今更、人類誕生の謎解かれても、あんまり感動しない。

人類に遺伝的に繋がる嫌気性細菌の前に、

地球に発生していた全く別系統の生物たちのエピソードはちょっとバクスターぽくていいか?

クラーク的に言うのなら、オーバーロードでもいいが、

あらゆるSFに登場したオーバーロードの中で、

一番弱いオーバーロードなのは泣かせる。

ファーストインパクト(ゼロインパクト?)に対抗出来ずに全滅した彼らだが、

彼らが避難所を作ってくれたから、人類は発生することが出来たのだ。

透明な存在はいやだと同族を殺す少年に読ませると教育的効果があるか?(笑)

生命体の目的は生きることである。

自分が永遠に生きられない環境では子孫を残すことである。

子孫を残せない環境なら、自分達の種族は全滅しても、

まったく別の生命形態が誕生するように環境に細工することである。

生命は生命を育む為に生きるのだ。

自分の生命が脅かされているわけでもないのに、他の生命を奪う存在は、

自分は生命体ではないと主張しているようなものである。

殺人者は人でなしと言われるが、人どころか、生命体でもない。

生命を持ってないのだから、殺人者は死刑にするのが、当たり前である。

人権どころか、彼らを生命体と認識する必要はない!

けっこうネタに出来たな。

無駄に長い小説だが、思索のネタに出来たので、

スペキュレティブフィクションとしては評価していいか。

『時の眼―タイム・オデッセイ①』 A・C・クラーク&S・バクスター 早川書房

本書のベストセリフ

「あらゆる宗教は精神病理だ」


単体で世界最強クラスのクラークとバクスターだが、

合体すると弱くなる非常識なユニットであるw

メインアイデアはG・R・ディクスンの「タイムストーム」 のパクリ。

ディクスンと違うのは、主人公サイドのみの視点からではなく、

同時に存在する色んな時代の勢力に視点がコロコロ変わることである。

アレキサンダー軍対ジンギス・カン軍の戦いに物語は収斂していく、

ハードSFというより、並みの歴史SFである。

実在人物が時代の制限を超えて戦う物語としては、

P・J・ファーマーの「 リバーワールドシリーズ」 にも劣る。

主人公は21世紀の女性兵士らしいが、

オーバーロードにお願いして、

彼女だけが、自分の時代に帰還出来るラストは笑った。

「タイムストーム」 にも「 リバーワールドシリーズ」 にも「戦国自衛隊」 にも負ける作品。

篠原千絵「天は赤い河のほとり」 にも負けているかもしれない。

アレキサンダーファンのマケドニア帝国ファンなら楽しく読めるかもしれない。

それとロシアの技術フェチにも楽しめるかもね。

2037年でも現役のソユーズ宇宙船とかカラシニコフ突撃銃が出てきまっせ!w

ジンギス・カンは悪役なので彼のファンは読まない方がいいでしょう。

モンゴル帝国の社会はチンパンジーの群れと同じだそうですw

『太陽の盾 [タイム・オデッセイ②] 』 A・C・クラーク&S・バクスター 早川書房

『時の眼―タイム・オデッセイ①』 は並み以下の歴史SFだったが、

これはなんとか並み以上のハードSFになった。

太陽が異常になり、5年後に致命的な熱線が地球に降り注ぐことが判明し、

地球と同じサイズの盾をラグランジュ1に建設し、

地球滅亡を防ごうという話である。

物語の背後にふざけた宇宙人(オーバーロード)が潜んでいるのが欠点だが、

地球政府の高官は女ばかりだし、

ホモが二人も出てくるし、

ジェンダーSFとしても評価出来る。

メインストーリーには関係ないが、

ヴァチカン市国がスペースシャトル自爆テロで消滅するという素晴しいシーンもありますw

地球サイズの人工天体を作り、軌道を制御する技術面の難しさの

細かい描写がとてもワクワクします。

制御にはコンピュータが欠かせないが、

自意識を持つ彼女は、人類に嘘を付いている節があった。

嘘つきと責めると軟弱な神経質のHAL9000みたいに発狂する恐れがある。

人類はキチ○イかもしれないコンピュータに全てを賭け、

黙々と盾の建造に邁進する。

地球の運命は?そしてコンピュータの運命は?

『プランク・ゼロ ジーリークロニクル①』 スティーヴン・バクスター 古沢嘉通・他訳 ハヤカワ

プロローグ:イヴ
第一部:人類、拡張の時代
  太陽人
  論理プール
  グース・サマー
  黄金の繊毛
  リゼール
第二部:スクウィームによる人類支配の時代
  パイロット
  ジーリー・フラワー
  時間も距離も
  スイッチ
第三部:クワックスによる人類支配の時代
  青方偏移
  クォグマ・データ
  プランク・ゼロ

目次を見ると長編みたいに思えるが、未来史ものの短編集である。

「論理プール」のゲーデルネタに突っ込むと、この小説世界ではアレフ2が発見されてないように感じた。

集合論ではなくて、別の論理で無限を考察すべきだという主張だから、

集合論でのアレフ2に触れる必要はないのかもしれないが、

集合論アレフ2の存在は確認されていたのではないかに?

アレフ0は整数の集合、アレフ1は実数の集合、

そしてアレフ2は超越数の集合である。

発見されている超越数は円周率πと自然対数の底εとオイラー定数しかないが(藁。

例によって私の勘違いかも知れないので、

アレフ2ネタでの突っ込みキボーン!

で、私が一番感動したのは「グース・サマー」である。

37世紀から始まる未来史だが、

この時代の人権意識は、全ての知的生命体に拡大されており、

知的生命に進化する可能性のある宇宙生物を殺すことはタブーとされている。

冥王星の衛星カロンに不時着した宇宙船のパイロットは、

救助の宇宙船を呼ぼうとしたのだが、

冥王星カロンとの間に巣を張るツナワタリを発見してしまう。

不時着した宇宙船内に食料は一ヶ月分ある。

そして、一ヶ月以内に冥王星に辿りつくことが可能な救助船も存在する。

救助船を呼ばないと自分は間違いなく死ぬ。

しかし、高速大出力の救助船を呼ぶと、巣が破壊されツナワタリが死ぬことは明確であった。

その行為をしないと自分が死ぬ場合は、他人を殺しても罪にならないのが古い人権意識であった。

カルネデアスの舟板を奪い合い、他人を海の底に沈めて、自分一人が助かっても無罪となるのが、古い人類の常識であった。

だが、37世紀の人類は、自分の命を守る為であっても、

他の生物を殺せないように進化していた!

救難信号を出せば、自分は救われる。

なれど、他者の命を犠牲にして生き延びるのは、知的生命体としてのプライドが許さない。

他人を否定して自分の人生を謳歌するなんていう恥知らずな無神経なことは出来ない。

人間ではない。宇宙人ですらない。

言葉も交わせない宇宙蜘蛛の命を守る為、宇宙飛行士は従容として死んで行こうとするのだが、

相棒の宇宙飛行士が、宇宙船を使用せずに、カロンから脱出する方法を考え付く。

それは、辛く厳しい努力を必要とするが、

知的生命体とは、他の知的生命体を守る為に努力するものである。

自分の利益の為に他者を否定するのは簡単だ。

本当に智恵あるものは、自分も他人も幸福にする方法を考え付くものであるぜよ。

『真空ダイヤグラム』 スティーヴン・バクスター 小野田和子・他訳 ハヤカワ

真空ダイヤグラム―ジーリー・クロニクル〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

真空ダイヤグラム―ジーリー・クロニクル〈2〉 (ハヤカワ文庫SF)

第四部:人類、同化の時代
  ゲーデルのヒマワリ
  真空ダイヤグラム
第五部:人類対ジーリー、最終闘争の時代
  密航者
  天の圧制
  ヒーロー
第六部:ジーリー、他宇宙への飛翔
  秘史
第七部:フォティーノ・バードの最終勝利
  <殻>
  八番目の部屋
  バリオンの支配者たち
エピローグ:イヴ


私が一番感動したのは「ゲーデルのヒマワリ」である。

宇宙が誕生して10億年の若さの時に、

ゲーデルの不完全性定理を発見してしまい、

宇宙にある全ての真理を証明出来ない虚しさから、

厭世的になる宇宙人種族の物語。

130億年後に地球人類が彼らにファーストコンタクトした時、

彼らは、一辺が1000万kmのフラクタル四面体コンピュータの中のデータとして
生きていた。

証明出来ない真理があるということは、正しい認識が出来ない場合が有り得る。

正しい生き方が出来ないのに、生きることに、情報を認識することに何の意味がある?

不可知な問題、否決定的な問題が存在するのに、知的生命が情報を処理する能力があるのは何故だ?

考える力が少ない動物でも、味方と敵を認識し狩りは行う能力がある。

知力の本質は認識ではなくて知覚ではないのか?

肯定も否定も乗り越えて、ただ、情報を知りたがる知識欲が、

知的生命体の本質ではないのか?

そして彼らは130億年間、自分では何もせずに全宇宙の全てを記録する傍観者となった。

人類は彼らから知識を引出す為に交渉するが、彼らはもちろん人類を無視し、

人類の行動を記録するのみ。

物理的攻撃をしても、人類と交渉の席につこうとはしない。

自分の身を守る為であっても、戦うという行為、判断、認識は選択しない。

生きる力に応用しない知識を溜め込んで何の役に立つのか?

生存欲よりも知識欲の方が強いのが、本当の知的生命体である。

知的生命体だから戦いというケダモノでも出来る行為は出来ないのだ。

全てに絶望して生きる気力が無くなっても、知識を求めるのがもっとも高度な知的生命体である!

美術愛好家としてダウ・アル・セット(サイコロの第七の目)ネタに触れておくと、

詩人マラルメを元ネタとするのが普通の知識人だが、

シュルレアリストの画家アントニィ・タピエスが元ネタだと主張すると、かっちょええかも?(藁

ジョアン・ポンス、ジョアン・ジョセップ・タラッツ、モデスト・クィシャルトはマイナー過ぎるので止めた方がいいです(爆)

『タイム・シップ』 スティーヴン・バクスター 中原 尚哉 訳 ハヤカワ

タイム・シップ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイム・シップ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイム・シップ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイム・シップ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ウエルズの「タイムマシン」の完璧な続編であり、

ウエルズSFの大甲子園であり、

主人公レベルでも、全宇宙全時間全生命体レベルでも「発狂した宇宙」になると言う

時間並行世界テーマの最高傑作である。

SF小道具も小はナノマシンから大はダイソンスフィーアまで登場する素晴らしい話である。

クラークの「楽園の泉」やニーヴンの「リングワールド」が如何に知的レベルの低い話かがよく判る。

シェフィールドが考え付いたアレ(クラークは考え付かなかった)も出てくるので

本書を読む前には「星ぼしに架ける橋」を読んでおくことを勧める。

教養も知的好奇心もない日本のSFファンの為にゲーデルについて補足しておこう。

<完全性定理>
論理体系には自己矛盾があってはならない。

不完全性定理
自己矛盾のない完全な論理体系には、必ず、証明できない正しい命題が存在する。

<時間論>
時間は時間軸とか時間流とかで、一次元的に表現するとパラドックスが発生する。三次元的円筒状が回転しながら移動していると解釈すべきである。

<無限論>
カントール連続体仮説は正しくて、アレフゼロとアレフワンの間の階層に別の無限は存在しない。


詳しいことは、現代思想の特別増刊号、「ゲーデルの宇宙」を読め。