『プランク・ゼロ ジーリークロニクル①』 スティーヴン・バクスター 古沢嘉通・他訳 ハヤカワ
プランク・ゼロ (ハヤカワ文庫 SF―ジーリー・クロニクル (1427))
- 作者: スティーヴン・バクスター,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2002/12
- メディア: 文庫
- 購入: 11人 クリック: 278回
- この商品を含むブログ (24件) を見る
第一部:人類、拡張の時代
太陽人
論理プール
グース・サマー
黄金の繊毛
リゼール
第二部:スクウィームによる人類支配の時代
パイロット
ジーリー・フラワー
時間も距離も
スイッチ
第三部:クワックスによる人類支配の時代
青方偏移
クォグマ・データ
プランク・ゼロ
目次を見ると長編みたいに思えるが、未来史ものの短編集である。
「論理プール」のゲーデルネタに突っ込むと、この小説世界ではアレフ2が発見されてないように感じた。
集合論ではなくて、別の論理で無限を考察すべきだという主張だから、
発見されている超越数は円周率πと自然対数の底εとオイラー定数しかないが(藁。
例によって私の勘違いかも知れないので、
アレフ2ネタでの突っ込みキボーン!
で、私が一番感動したのは「グース・サマー」である。
37世紀から始まる未来史だが、
この時代の人権意識は、全ての知的生命体に拡大されており、
知的生命に進化する可能性のある宇宙生物を殺すことはタブーとされている。
救助の宇宙船を呼ぼうとしたのだが、
不時着した宇宙船内に食料は一ヶ月分ある。
そして、一ヶ月以内に冥王星に辿りつくことが可能な救助船も存在する。
救助船を呼ばないと自分は間違いなく死ぬ。
しかし、高速大出力の救助船を呼ぶと、巣が破壊されツナワタリが死ぬことは明確であった。
その行為をしないと自分が死ぬ場合は、他人を殺しても罪にならないのが古い人権意識であった。
カルネデアスの舟板を奪い合い、他人を海の底に沈めて、自分一人が助かっても無罪となるのが、古い人類の常識であった。
だが、37世紀の人類は、自分の命を守る為であっても、
他の生物を殺せないように進化していた!
救難信号を出せば、自分は救われる。
なれど、他者の命を犠牲にして生き延びるのは、知的生命体としてのプライドが許さない。
他人を否定して自分の人生を謳歌するなんていう恥知らずな無神経なことは出来ない。
人間ではない。宇宙人ですらない。
言葉も交わせない宇宙蜘蛛の命を守る為、宇宙飛行士は従容として死んで行こうとするのだが、
相棒の宇宙飛行士が、宇宙船を使用せずに、カロンから脱出する方法を考え付く。
それは、辛く厳しい努力を必要とするが、
知的生命体とは、他の知的生命体を守る為に努力するものである。
自分の利益の為に他者を否定するのは簡単だ。
本当に智恵あるものは、自分も他人も幸福にする方法を考え付くものであるぜよ。