『風が吹いたら桶屋がもうかる』 井上夢人 集英社文庫

役に立たない(発動のコストパフォーマンスが悪い)本物の超能力者の元に持ち込まれる相談を、

同居人の名探偵が華麗な推理を展開し、事件にしてしまい、

びっくりした依頼人が自力で事件を解決するというパターンのユーモア短編集。

推理小説は、超能力者を笑い者にするパターンは多いが、

本作は知性と教養溢れる名探偵をも笑い者にしてしまった点が新しい。

イッカクの名セリフ集

「こんな結末をつける作家の気が知れない」

「なんだ、この小説は。

作家の都合ばっかりで話ができてるじゃないか」

「けっ、なんだこれは

こんな非論理的な名探偵を、

よくも恥ずかしげもなく書いたもんだ。

読まされるこっちの身にもなってみろ」

「馬鹿にしてる!

読者をなめるのもいいかげんにしろ

なにが華麗な推理の冴えだ。

ただのこじつけを推理とは呼ばんのだ。

だいたい、設定が不自然に過ぎる」

「ほぅ」

「つまらん!

ミステリー作家というヤツは、どいつもこいつも、

同じような動機ばかり使い回ししているだけだな。

工夫というものを知らんのか」

「ばかばかしい!

まるっきり前作の焼き直しじゃないか。

シチュエーションが似ていて、

解決まで同工異曲とは、

どういう神経をしているんだこの作家は。

それでもプロか!」


依頼人にとって、超能力も名推理も何の役にも立たないのであるが、

それでも依頼人は相談したことによって良い結果になり、

彼らに感謝するという爽やかな読後感が残る傑作。

本物の超能力者が出て来るのがふざけているが、

ギャグの対象としての実態は低能力者なので、

知的レベルの高い傑作である。

世界一のミステリ短編集アシモフの「黒後家蜘蛛の会」を読んで、

頭が味噌ではない読者には、

ヨーノスケの超能力のトリックも説明出来るので問題ない。

7つの事件で、5つは事件解決後に超能力が発動してるので、

ヨーノスケは超聴力の持ち主(本人は超能力だと思っているが)、

単に耳が凄くいい人物ということで説明が付く。

残りの二つのうち、ひとつは解決と発動がほぼ同時だが、

これも電話の着信音という音絡みなので、

超聴力絡みで説明出来るだろう。

ひとつだけ、超能力で透視に成功した話があるが、

依頼人が納得しただけで、

物証は明示されてない。

ヨーノスケが依頼人を喜ばそうとして推理した結果だと私は判断する。

イッカクの論理的な対話型推理法ではなくて、

ヨーノスケは全ての感覚を遮断した瞑想推理法を使用しているというだけである。

ヨーノスケは超能力を使う為に感覚遮断していると思い込んでいるが、

推理している自覚がないだけで、実はヨーノスケも名探偵なのである。

物語の語り手のシュンスケの立場を慮れば、

もっと簡単なトリックもありえるがな。

ヨーノスケの超能力のトリックを全て明確にした続編を求むw

よく出来た短編集だが、

ヨーノスケは過去にタンポポの霊と交信しているのに、

生きているアロエから目撃情報を引き出す時、

植物と交信したことはないと語っているのは、

作者のミスか?ww

風が吹いたら桶屋がもうかる (集英社文庫)

風が吹いたら桶屋がもうかる (集英社文庫)