『孟夏の太陽』 宮城谷昌光 文春文庫

宮城谷昌光を精力的に読んでいた時期にこれを買ってなかったのは、

短編集だからであるが、

・孟夏の太陽
・月下の彦士
・老桃残記
・隼の城

の四篇が収録されているが、

主人公は晋の宰相家趙一族であり、

趙盾、趙朔、趙鞅、趙無じゅつの四人の主人公の物語が、

時代順に語られる、

長編ではなく、短編オムニバスである。
素直に長編として膨らませた方が面白くなったと思うが、

作者後書きを邪推するに、

まだ新人時代に、文芸春秋の偉いさまが、

わざわざ蒲郡まで原稿依頼に来てくれたので、

断るわけにもいかず、

適当に書いた作品集という印象を受けた。

小説なんだが、作者のやる気のなさが文章から読み取れます。

小説なんだから、キャラを立たせるセリフを捏造しても構わないのに、

「歴史書には書かれてないが、

○○は××とすら言ったかもしれない。」

という文章は小説家としては逃げの姿勢ですな。

この小説の有名なエピソードは史記でも読めるし、

文化レベルの低い野蛮な戦闘国家晋の大臣たちを主人公にしても、

元ネタが小粒すぎて主人公に感動出来ない。

脇役たちに主人公たちは食われまくれています。

この作品集で一番魅力的な人物は趙盾の父の趙衰ですな。

晋の公子重耳の部下で、

ロリコンの重耳に年増女を嫁として押し付けられた人物w

趙衰は書物オタクであったので、

初夜の日に妻を正座させて、

一晩中、自分の読んだ本の内容を講義したそうです。

それは一日で終わらず、

三日三晩続いたそうです。

新婚さんの夜の営みを盗聴して興奮しようとしていた村人は、

「趙衰は嫁ではなくて弟子を得た」と吹聴したそうです。

趙衰の嫁がブスだったわけではない、

馬鹿で外見だけが可愛い女が好きなロリコン重耳の趣味には合わないが、

正常性欲者の好みに合う美人であり、

聡明な人だったのである。

自分が語る本の話題に付いてこれるかを確認してから、妻を抱いた趙衰は、

愛書家の鑑ですな。

本の話題も通じない馬鹿女を妻にして喜んでいる奴は、

性欲をもっとも大事にして生きているんですな。

人間の女はもったいないよ、猿か羊でも妻にすれ!w

史記でも書かれているが、歴史萌えには貴重な情報をメモっておく。

中国で始めて城を水攻めしたのは、

知遙である。(紀元前453年)

世界一早かったかどうかは浅学の私には判らない。

世界史オタクの突っ込みキボーン!

孟夏の太陽 (文春文庫)

孟夏の太陽 (文春文庫)