『ミクロの決死圏』 アイザック・アシモフ

アシモフ原作ではなくて、映画をアシモフがノベライズしたが、

小説版の方が科学考証のツッコミが鋭くて納得出来る。

ミクロ化されると相対性理論の世界に突入するという考証はさすがアシモフ大先生である。
映画版ではタイムリミットは60分だったが、

それは通常サイズの人間にとってであり、

ミクロ人間にとっての相対時間は、実は60分より遥かに長いのだというツッコミは面白かった。

映画版は、シュルレアリズムの画家、サルバドル・ダリが体内世界の美術をデザインしたことで話題になったが、

やはり映画版は幻想的なミクロ世界を視覚的に楽しむものですな。

科学考証を真剣に考えていたら、映画版は楽しめません。

小説版は、ハードSF作家としてのアシモフの、映画版へのツッコミを楽しむものである。

ミクロ潜航艇の酸素タンクが壊れて、

肺に寄り道して、酸素を補充するシーンがあるが、

小説版では、ミクロ人間が吸える酸素にする為に、

補充した酸素をちゃんとミクロ化する描写もある。

映画版の最大の疑問点、

ミクロ人間が巨大化しつつ目から脱出するラストだが、

同じ瞬間に、白血球に食われた敵のスパイの死体と、

破壊されたミクロ潜航艇も、

患者の体内で巨大化した筈である。

映画版では、ミクロ人間の生還を喜んでいたが、

画面に映っていない別室では、

患者の体は破裂して任務は失敗したことになるのではという疑問が残る。

アシモフ先生は、そこもキチッと説明していたと思う。

続編の小説版は科学考証をやりすぎて、

暴走したギャグハードSFなので、

ミクロ世界での思考実験をもっと楽しみたい人は、

ミクロの決死圏2」よりも、ホーガンの「ミクロパーク」と「内なる宇宙」をお勧めする。