『ブロントメク!』 マイクル・コニイ  サンリオ

コニイの作品は小説である。伝統的なイギリス小説なのである。

淡々と冷静に主人公の人生の断片を描写するもっとも小説らしい小説なのである。

コニイの作品を読めるか否かという事は、その人が小説を好きか嫌いかという事でもある。

コニイの作品はあまりにもオーソドックスなのだ。これが小説というものなのだ。

50年代までのSF小説は、ひたすら宇宙や未来を目指し、

60年代はニューウェーブ運動で、人間の内的世界こそ目を向けるべきだと主張した。

そして70年代を代表するコニイがやったことは、当たり前の小説をSFにするということだ。

SFの設定で普通の小説を書くと言った方が適確であろうか?

何故SFは外宇宙だろうと内宇宙だろうと、壮大な思考実験かエンターティメントでなければいけないのか?

異世界を舞台にして普通の物語を描いて何故いけない!
考えてみれば不思議である。

SFは自由なものなのに、SFの長所を否定してSFを書こうという作家がコニイ以前に誰がいた?

で、本書は6つの月を持つ惑星アルカディアに住む人々を、主人公ケヴィン・モンクリーフとの関係において一人称で描いた小説である。

タイトルのブロントメクとはコンピュータ制御の農耕機械のことである。

タイトルだからってSFファンが期待するような描かれ方はしませんよ。

ま、ラストでSFファンなら誰でも予測でき、かくあるべし!というドンデン返しがあるのだが、

本書はSF嫌いで小説好きという人にぜひとも読んでほしいね。

SFはわけがわからん難しいものでもバカバカしいものでもないのですよ。

そして使い古されたSFマインドとセンス・オブ・ワンダーにあきあきしているSFファンにも意外なSFになるでしょう。

本書のどこが凄いのかということを、極端な例で言うならば、

架空の惑星を科学的に設定して、ぬえメカを出して、

平然と「アルプスの少女ハイジ」の世界をやってしまうようなものである。

「プロントメク!」がハイジだとは言ってません。誤解しないよーにw

ブロントメク! (1980年) (サンリオSF文庫)

ブロントメク! (1980年) (サンリオSF文庫)