『ハローサマー、グッドバイ』  マイクル・コニイ

未来のどこかの惑星でのエリートの少年と召使いの少女の甘くせつない初恋物語

SF的未来社会を舞台にする必然性が感じられないただの恋愛小説と思ったら、

ラストの2Pというか、ラスト1行であっと驚く凄いSFになります。
「世界で唯一人の愛しい僕の彼女」

という概念を嘲笑う凄い結末になります。

恋愛小説として瑞々しく上手いからこそ、

恋愛を否定というか、超越する驚愕のラストの衝撃度が物凄いです。

恋愛テーマのSFの最高傑作である。

絶対映画にはならないが、もし映像化されたら、

恋愛に恋する少女が映画館でパニック状態になり、

暴動起こして映画館を破壊してしまうぐらいの衝撃度である。

これこそがSF作家の持つ脅威の力である。


本書のベストセリフ

「大切なのは自分が自分のことをどう思ってるかってことだ。他の連中がどう思ってるかじゃないんだ」

「大切なのは話の裏の意味なんだぞ、ドローヴ。ひとつの物語は目的があって語られるけれど、その語られ方にも目的があるんだよ。その話が本当かどうかなんてのはつまらんことさ」

「誰も人が考えることをやめさせることはできない」

「ぼくが怒ってるのは、敵と取り引きできる人間がいるってことさ、ただそれだけなんだ。それは裏切りだからな」
「悪いけどね、そう言われてもぼくには通じないんだよ、ウルフ。宣戦が布告されたのはある決まった日なんだ。ある日は蒸留液を輸入して、次の日には裏切るのが割の良い仕事だって言うのかい?それにその時に船が中間のところにいた人間はどうなんだ?」

「やつら、頼みもしないんだ、畜生、頼みもしやがらないんだ。そういうことはなさらんのさ。お前たちトラック運転手はみんなわれわれのために働くんだ、ただこう言っただけでやがる。これが議会のやり方さ、頼んだりしないんだ。命令しやがるのさ。奴隷さ」

「こいつは議会の戦争のようだな、わしらの戦争じゃない。どうして連中はわしらのことは放っておいて、自分で戦わないんだ、わけがわからん!」


異星が舞台であるが、ラストのどんでん返しがなかったら、青春恋愛小説である。
地球でいえば1875年頃に相当する文明を持つこの惑星では、
エルト国とアスタ国で戦争が勃発した。
本書はその状況を背景として語られる恋愛青春小説である。
主人公の少年はエルト国の役人の息子、
主人公が恋する少女は、エルト国のしがない旅館の娘。
戦争、身分の差、そして意外な事実によって引き裂かれる幼い恋人達。
彼らに煌く夏の日は戻ってくるのでしょうか?
という話です。

SF臭い所はまったく無さそうに思えて、実は凄いSFだったとラストで理解出来て感動するタイプのSFざんす。

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)