『数学的にありえない』 アダム・ファウアー 文春文庫

一番最初の統計学の講義で、いきなり数学ギャグが爆裂し、笑えるんだが、理系の真面目な人は「数学的に間違ってる!」と怒り狂って本書の評価は低くしそうだが、エンタメとして水準以上。「パスカルの賭け」を否定する論理には大共感した。「数学的にありえない」凄いトンデモ理論を期待すると失望します。間違いはあるが、意外とまともな薀蓄を語ります。上巻はキャラをばら撒くのみ、下巻のまとめに期待しよう。

下巻で主人公が超能力者に目覚めてしまい、これはSFと言ってもいいと思う。グレッグ・イーガンの『宇宙消失』と同じ欠点はあるが、私はイーガンよりこっちの方が良いと思う。アクション小説として主人公の男は一人も殺人しないのもいい。殺しの担当はヒロインの方だという、ジェンダー観も素晴しい傑作。上巻で余分なページ稼ぎに思えた雑魚キャラも重要な伏線として見事に回収するプロットが見事。ホロリとなる感動的な結末も待ち構えてます。リーダビリティが良過ぎて軽く感じてしまうが、個性ある傑作であった。

数学的にありえない 上 (文春文庫)

数学的にありえない 上 (文春文庫)

数学的にありえない 下 (文春文庫)

数学的にありえない 下 (文春文庫)