『エージェント6』 トム・ロブ・スミス 新潮文庫

世界征服を企む悪のナチスドイツの首都ベルリンに突入し、世界史1の悪ヒトラーを自殺に追い込んだソ連軍は正義の組織である。ソ連社会主義という人類の理想を顕現した地上の楽園である。世界征服を企む悪の資本主義帝国国家アメリカの差別される黒人がソ連に憧れるのは当然である。
ミリオンセラー歌手となったその黒人がソ連訪問し、クレムリンは黒人の夢を壊さない為、偽装工作に奔走する。
ソ連にはもちろん飢えた国民などいない()。が、彼はクレムリンの用意した視察コースを外れる。そこを読んで先回り工作していたのは我らの主人公レオ。
そして15年間にレオに個人的にも悲惨な事が襲い掛かる。

大学卒業まで学費無料の人類の理想の社会主義国家それがソ連である。ウズベクスタン共和国は平均寿命70歳越えの楽園ソ連の一員である。
だが、ウズベクスタンの隣に平均寿命40歳識字率10%(女性は2%)の未開で野蛮な宗教国家アフガニスタンがあった。
世界革命戦争の理念に燃えソ連アフガニスタンに侵攻じゃなかった進出する。
共産主義の下でなら女性も社会進出出来ると夢見た23歳のアフガン女性はアフガン秘密警察に志願する。アフガン秘密警察を指導するソ連側の教官は、我らの主人公レオ!

ミステリとしては間延びしたが、大傑作小説!
30年にも及ぶ主人公の妻への想いをしたためた小説というのが一般受けする理由だろうが、
作者のバランス感覚は素晴しくて、単純に家族愛をマンセーした小説ではありません。
家族愛や異性愛が嫌いな人も楽しめます。
脱いだ途端にフェードアウトしてしまい、下品なセクスシーンはありません。
最大の肉体的接触の描写はキスまでである。
ソ連という素晴しい国家があったことをお子様に教えるテキストとしてぜひ()。
バランス感覚が素晴しい作者なのでもちろん反ソ反共主義者が読んでも楽しめます。
女性を家庭に閉じ込めるイスラム国家の悪は糾弾しているが、
イスラム教の素晴しさが判り難いのはやや失敗か?
酒が禁止、首都にも売春宿が存在しないイスラム教国家の素晴しさをもっと前面に出して欲しかった。
コーランは宗教の聖典の中で一番ジェンダーフリー
女性蔑視思想は実はない。
女性を穢れた者として聖なる場所からスポイルする宗教もあるが、
モスクはもちろん女性の立ち入りOK。
コーランを誤読した男性のいやがらせがあるので、
現実には女性がモスクでお祈りすることは稀だそうだが、
肝っ玉の小さい男どもはいやねぇ()

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)