『イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ』 山田正紀 早川

本書のベストセリフ

アメリカは例によってテロリスト殲滅をスローガンにし、

PKOを隠れ蓑にしているが、

結局は自国に利益を誘導するために動いているにすぎない」


そのテロリストを宇宙人が援助していたからもうタイヘン!

ウィトゲンシュタインラカンの思想や

宇宙論純粋数学が巨大合体変形ロボットとして実体化し、

天使タイプに変形するロボを手に入れた人類は、

使徒パウロ阿修羅王パイロットとしてエントリープラグインし、

悪魔ロボと戦うことになる。

宇宙の謎を握るアルチュール・ランボーをGETするのは人類か、宇宙人か?

宇宙人が自意識を持たない宇宙人なのがさすが正紀!

人間の意識も、ウィルスに感染して病気として発生したという説を唱えています。

人間原理を否定する素晴しい宇宙原理が出てきます。
天使ロボのパイロットの本読みのチャンピオンのエミリー・ブロンテが、

グレッグ・イーガン が何故ダメポなのか?

それなのに信者が付くのは何故なのかを

見事に分析するシーンには拍手喝采した。

哲学や物理学や数学の最新知識を

天使と悪魔の戦いに還元するのは文学でもやれそうだが、

それを突き抜けてSFとして巨大ロボット同士の戦いになってしまうのが、

たまらなく楽しい。

パイロットの阿修羅のイメージはモロ萩尾望都 の中性的な阿修羅王と同じである。

アルチュール・ランボーはホモだったので、

ランボーと美少年の絡みもあるし、

正紀は光瀬龍栗本薫 を背負う覚悟を決めたらしい。

宇宙論と数学の話題は例によってちょっと惜しい。

超空間バルクの概念と繰り込み理論をもっと説明するべきだったな。

数学的繰り込みの面白さを詳細に紹介すると、

SF読むより数学書読む奴の方が増えてしまうので、

わざと詳細に書かなかったのだと思うが、

ちょっと紹介しておくか。

1+2+3+∞と全ての自然数を足した数も、

繰り込めば計算出来ます。

普通に考えれば答えは無限大だが、

繰り込んで有限の値に出来るのでR。

あとカシミール効果を正紀は誤解しているような気もしたが、

たぶん私の誤読でしょうな。

難解な物理や数学や哲学の話題が、

巨大ロボットプロレスアニメになってしまうのが、

本書の最大の売りである。

で、ロボの搭乗員も女の方が多い、

素晴しいジェンダーSFでもあります。

鎖に繋がれた魂が解放される素晴しい

ワイドスクリーンバロックSFが本書。

加速装置もちろん出ますw

イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ

イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ