『紫電改のタカ』 ちばてつや

本書のベストセリフ

滝城太郎「鬼畜米英と教えられてきたが、

     あいつもあいつも俺と同じ人間だった。

     戦場で敵として出会わなければ良き友人に成れたかもしれない」


ちばてつやの最高傑作にして戦記漫画の最高傑作。

少年漫画として悪役のインフレという王道パターンを踏みつつ、

努力、友情を爽やかに描き、

でも勝利しないという見事な反戦漫画として完結する。
戦記漫画の王道、

大空のサムライ坂井三郎とか、

主人公はカスタマイズされた黒い機体に乗るとかを踏襲しながらも、

人情派のちばてつやらしく、

主人公が反戦意識に目覚めてしまい、

厭戦気分になり、

エースパイロットとして出世した松山航空隊時代に、

源田実司令の前でふてくされて、

源田司令への敬礼の号令をかけない素晴らしいシーンがある。

井上成美と違って、市井の人にならず、

戦後も自衛隊幹部として税金に寄生して生きた源田実ですぞ!

息子も国会議員になったあの源田実ですぞ!

源田一族からクレームが来てその内発禁になるだろうから、

読めるうちに読んでおくことをお勧めする。

思想的問題を抜きにしても、

中盤までは秘密基地もサイボーグパイロットも登場する

SF風味のメカ戦として楽しめます。

そして号泣する名ラストシーンが待ち構えてます。

当然特攻して終わるわけだが、

滝城太郎の描写としては、

飛び立つシーンで終わってます。

使い古されたお涙頂戴の臭い体当たりシーンは描いてません。

母と恋人の描写で終わってますが、

これが、痛烈な皮肉に満ちた名場面です。

歴史の波に飲み込まれた庶民にはこんな結末が当たり前です。

「死なないで(うるうる)」

「それでも俺は愛する者を守る為に戦う!」

ドッカーン!

などというかっちょええ体当たりシーンを描く奴は二流ですな。