『非(ナル)Aの世界』 A.E.ヴァン・ヴォークト 中村保男訳 創元文庫

ワイドスクリーンバロックSFの元祖、ヴァン・ヴォークトである。

超能力、超常現象が吹荒れる不条理世界で、

不条理を引き摺って歩く男を主人公にしたヴァン・ヴォークトは一世を風靡したが、

超能力の存在を信じてしまい、き○がい扱いされる悲惨な晩年を過ごした。
天才とき○がいは紙一重というので、

中期のヴァン・ヴォークトのパワーは凄い。

正常に戻った最晩年の作品は地味過ぎて退屈だが、

非(ナル)Aシリーズを書いていた頃のヴァン・ヴォークトは圧倒的スケールと

怒涛のストーリー展開で凄かった。

で、非(ナル)Aシリーズであるが、

Aとは記号論理学を確立したアリストテレスのことである。

アリストテレス論理学が通用しない荒唐無稽な世界が、

非(ナル)Aシリーズである。

論理学は単純な記号論理学から、述語論理学、様相論理学へと発展していったので、

論理学マニアが今読むとさすがにネタが古いと思われるかも知れないが、

論理学やユークリッド幾何学で超能力に無理矢理説明をつけてしまう強引さは、

まさにワイドスクリーンバロックである。

不条理文学というと、カフカが有名だが、

ヴァン・ヴォークトの世界にグレゴール・ザムザが生きていたなら、

彼は毒虫に変身した日に、殺虫剤の会社を襲い、

冒険スペクタルが開始された筈である。

ズボンが穿けないと悩むのではなくて、

穿けないのなら、ズボンを引き摺って戦うのが、ヴァン・ヴォークトの主人公である。

熱中してもいいけど、超能力を信じるなよw

非(ナル)Aの傀儡 (創元SF文庫)

非(ナル)Aの傀儡 (創元SF文庫)

非(ナル)Aの世界 (創元SF文庫)

非(ナル)Aの世界 (創元SF文庫)