『太公望』 宮城谷昌光 文春文庫

本書のベストセリフ

「人は生きたいように生きればよい」
「己の自由を主張する者は、他人を縛ってはならない」

「平等社会はありえないが、公平な社会は作ることが出来る」

「卑賤の者を侮蔑する者は小人である」

「利によって争う者は負け、怨みによって戦う者が勝つ」

「敵に立たせ敵に先に勝たせ、最後に勝つのが真の勝利である」

「天下は天下の天下である」

「天とは空、虚空、虚しいものである」

「天の声とは人の声である」

「天の声が聞けない者は動いても失敗する」

「人には選択した不幸な運命を受け入れる矜持がある」

「不幸な運命の人を助けたいと思うのは、支配者側の傲慢な論理である」


などという名セリフ満載の素晴らしい小説。

千年に一人の天才軍師と言われる太公望だが、

太公望以前には兵法が存在しなくて、

神のお告げで動いていた軍隊を合理的な法で動かした、

兵法の創設者というのが正しい。

もっとも優れた兵法家は孫子だと思うが、

平和的中立主義を諌めて、民族を守る為には戦わなくてはいけない、

と主張する太公望の教えは孫子より右翼には受けると思う。

少年時代に商の受王に父を殺され、

商王朝打倒の怨みを抱いて成長した太公望は、

周公と太子発の人柄に触れて怨みは浄化され、

受王をぶち殺したいとは思わなくなったのだが、

厭戦思想を持つ自分の民族が商王朝に辺境に駆逐されていく、

現状は正さなければならないと、

周と召を操り、商王朝を打倒することになるのであるが、

悪の帝国の商を倒しても、商が作った素晴らしい文化

<文字>は消えることはないだろうと思うのは清清しかった。

敵にも学ぶことはあるという太公望の知識欲には萌え萌えでした。

倒すべきは悪しき風習であり、本当の敵なんていないのだ。

太公望に討伐された悪しき山賊が改心して、太公望の部下になるのだが、

知的に成長し続ける元山賊に太公望が舌を巻くシーンもあったりして、

環境が悪いと人は悪になるということがよく判って感動しました。

山に篭って剣術の修行をした太公望は、目にも止まらぬ早業で剣を使えるようになり、

下山しようと思ったのだが、師匠は文字を知っていたので、

ついでに文字も習い始めるのだが、

文字に興奮して文字にのめり込むシーンが、

ヘレン・ケラーの奇跡の人のラストシーンみたいに感動的である。

努力して文武両道の人になった太公望だが、

有能になって目立って、豪族に目を付けられて、

豪族の娘と結婚する破目になる。

家庭の幸福に溺れ、

世界平和の為に商王朝を倒すという野望を忘れかける太公望だが、

幸運なことに妻が病死してくれて、

天の意志を感じた太公望は策謀の場に帰ってくる。

不幸はより良い幸福の前兆だと考える、

太公望の前向きな考え方は生きる力を与えてくれます。

人事を尽くして天命を待つ。

がベストの生き方だと思います。

努力するという生き方は必ず実を結びます。

まあ、太公望は自分が商王朝を倒せなくても、息子が倒してくれれば良い。

とまで悟っていたようであるが、

悪しき政治家や神々は、天の声に導かれた英雄が必ず倒してくれます。

悪に加担せずに善なる努力をしましょうねぇ。

太公望 上 (文春文庫)

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太公望 下 (文春文庫)

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