『創世記機械』 ジェイムズ・P・ホーガン  山高昭訳  創元

70年代SFが生んだ最高傑作だ!!!!

ハードSFというと小生はオロモルフ号シリーズを思い出してしまい、

わけのわからん図表やら数式がでてくるものという強迫観念が発生し、

余程感動的でないと読む気がおきない。

評判になったニーヴンもプロテクターでコケてしまい、

ここ2年ほどハードSF恐怖症に陥っていたが、

本書はハードSFってこんなに良いものだったのかと、

しみじみと実感させてくれた。


数式も図表もないがしっかりとした物理ハードSFであり、

なんといっても主人公が魅力的だ。

時代設定は2006年から2007年(エピローグはその百年後)で、

二大勢力が対立してるが、国家構成は現在と違う。

ヨーロッパ合衆国が誕生しており、

近隣にある同じイデオロギーの国はだいたい合併し一つの国になっている。

ただし、日本は世界中から嫌われたのか、日本国のまんまである。

どこかと合衆するか、連邦してたら、「JEM」みたいに酷いメにあうのだろう。


本書のベストセリフ

喜んで背中を出す者がいる限り、

大衆におぶさって甘い汁を吸うコリガンのような男は絶えないだろう。


誰かを殺すことなんぞには、まったく興味がないね・・・

あんたのためであろうと、あんたが代表する何のためであろうとだ。

ぼくは、あんたの体制のおかげで、ここへ連れてこられたんだ。

帰属意識がないから、狂っているだと。冗談じゃない。

あんたの体制が作りだした混乱を収拾するのに、

手を貸す義務があるだと。冗談じゃない。

そんなたわごとは、阿呆どもに聞かせるんだな。


クリフォードとサラが話す時には、対話のほとんどは口に出されず、

しかも即座に通じ合うのだった。

彼は、この少ない言葉の中で、自分に関する限り、

どんな政治的あるいはイデオロギー的聖戦のためであろうと、

一人の人間の命でも代価としては高すぎることを伝えたのである。

予想される彼女の次の質問

”もし召集されたら軍隊に入るか”

については、答えはノーだった。

そうしたところで、何も解決はしない。

仮に世界の半分が洗脳され、操り人形のようになっているとすれば、

それを解決する道は、百年間を逆戻りして彼等を見習うことではない。

普遍的な教育、自覚、

そして知識だけが、唯一の恒久的な解決を提供するのだ。

爆弾、ミサイル、憎悪は、人々に眼に見える脅威を与えて団結させ、

苦しみを長びかせるだけなのだ。


おお、ブラッド、人間はどうしてこんなに愚劣になれるのかしら
たぶん、連中は、みんなが同じ方向に行く限り、

車がどっちへ進もうと、かまわないんだろう


人生は、他人の愚行とは無関係に生き抜くものであって、

彼らの許可は要しないのである。


人間には好きな生き方を選ぶ権利があり、

ここへやって来てそれを奪おうとするどんなやつらとでも私は戦う・・・

向こうにはそういうやつらが無数に待ちかまえているんだ。

望みもしない薄汚いイデオロギーを私に押しつけたり、

何を信じろとか信じるなとかいわせるようなことは、誰にもさせん。

私が自分で決めるんだ。

それが私の知っている民主主義であり、

君に守る義務があるといっているものだ。


ぼくは選んだ。押しつけているのは、あんたたちだ。


あんたたちと連中とは、何の違いもない。

あんたたちは、みんな月並な妄想のお説教集団さ。

どれも同じ世迷い言だ!

どうして、みんな家へ帰って、そんなことを忘れてしまえんもんかね。

この惑星の庶民たちはもう好きな生き方を選んでいるのに、

その内容があんたたちには都合が悪いものだから、

聞こうとしないんだ

−−−彼らは、そっとしておいてもらいたいんだよ


そうだ−−−ここに来たについては、もう一つ立派な理由がある。

何をするにつけても、最高の理由だと思っているやつだ。
それは?
そうしたかったからさ。


思いだせない・・・待てよ・・・我々は辞職したんだ。

それだ−−−我々は二人とも失業し、二人とも文なしになった。

それを祝っていたんだ。


体制には勝てないことを、世間に思い知らせようというんだろう。

彼らなしでもうまくやっていける様子を見せれば、

さっそくそれの妨害にかかるんだ。

それで、世間には、謎が通じる。

やつらの貧弱な頭の働き方とは、こんなものさ。

やれやれ、世界がめちゃめちゃになっているのも、不思議じゃないな。


これは、ほんの皮切りなのだよ。事態はもっとひどくなるだろう。

きみたちが相手にしている者たちを、見くびってはいかん。

彼らの多くは愚かだが、権力を持っている

ー−−これは怖るべき組み合わせなのだよ。

彼らは、可能ならば、きみたちを抹殺するだろう


我々が屈伏している限り、事態はいつまでたっても変わらない。

ここだけのことをいってるんじゃない

−−−どこでもだ。世界中が気が狂っている。

この事態をほんとうに解決する方法を見つける力のある人たち自身が、

みんな強制されて、事態を悪くするのに一役買っている。

そして、その強制をしているやつらは、事態を理解すらしていないんだ。


歴史を通じて、人類の最大の敵は二つあった

−−−無知と盲信だ。

それ以外の困難は、実際問題としてすべてこれから派生するのである。

この敵と闘うために人類が開発した最大の武器は科学、

すなわち知識の獲得と活用だった。

ところが、時が移るにつれて、科学は人類の困難の解決にではなく、

その拡大のためにますます使われてきている。

科学は次第に我々の最も卑しい本能に奉仕させられているのである。


私は科学者だ。私は憎悪と不信に引き裂かれた世界に生きているが、

こういう世界を作りあげることに、私は何の関与もしなかったし、

その理由にも興味はない。

こうした事態は、私の知らない、

しかも私の代理だと主張する人間たちが作りあげたものだ。

いまその同じ人間たちが、彼らに対する義務として、

私に自分の生活を放棄させる権利があると思いこんでる。

立場を明確にするためにいっておくが、

私はそんな義務を認めたことは一度もないのだ


16世紀及び17世紀におけるヨーロッパの科学ルネッサンスの中で、

人間は、事実と空想、真実と虚偽、現実と夢想を区別する方法を、

初めて発見した。

本物の知識からは創意が・・・産業が・・・知的自由が・・・豊かさが生まれた。

ヨーロッパは類いまれな文明を作りあげた。

この国はこれと同じ伝統の上に築かれたのであり、

我々の社会はこれと同じ原理に基礎をおくべきものなのだ。


だが、伝統は継承されなかった。

ルネッサンスの期待は果たされなかった。

以前からの無知と偏見は、今も姿を変えて残っている。

それらは今も同じ力を持ち、人間の心に恐怖と疑惑をひきおこしている。

前は宗教的恐怖だった。今は政治的恐怖だ。


何も変わってはいない。

獲得され全人類への遺産になる筈だった知識は邪悪な目的に悪用されて、

他の世界はヨーロッパの先例をたどることを許されなかった。


歴史の教訓によれば、こちらが与えなければ、

相手は遅かれ早かれそれを取る。

このことの道徳性はどうでもいい

−−−これが事実なのだ。

この教訓が、今また繰り返されようとしている。

世界はまたもや、暴力では解決できない問題を解決しようとして、

暴力と暴力でぶつかりあう寸前にある。

これを解決できるのは、知恵と理解だけなのにだ。

創世記機械 (創元SF文庫)

創世記機械 (創元SF文庫)