『項羽と劉邦』 横山光輝

楚漢戦争の大まかな入門書としては、いいだろうが、

司馬遼太郎版に比べると、すべてが、見劣りする。

ただし、横山光輝の長所は、漫画は娯楽と割り切る職人気質にある。

言い換えれば、思想性、テーマ性を出さないという事である。

手塚治虫のように、ヒューマニズムとか、

石森章太郎のように、漫画はすべてを表現出来る萬画である。

などという、鬱陶しい自己主張をせずに、

何が原作であっても、黒子に徹し、万人に受けるように、

原作のアクを抜くセンス(競合作品と被らないセンスとも言えるが)が、

横山光輝の偉大なB級のセンスである。
楚漢戦争の時代を読みやすい漫画で表現してみました。

偉そうな思想は訴えていないので、どうぞ、お気軽に楽しんで下さい。

という立場で描かれたのが、本書である。

特定の人物にのめりこまない、

プロとしての抜群の平衡感覚を持っているのが横山光輝の魅力である。

女子高生が同人誌に発表するものなら、

好き勝手に自分の好きなキャラを美化するのは自由だが、

卑しくもプロのクリエイターであるなら、

バランス感覚を磨くことも大事である。

北方謙三横山光輝の爪の垢でも飲んで、反省してほしい。

項羽と劉邦 1 (潮漫画文庫)

項羽と劉邦 1 (潮漫画文庫)