愛知県美術館「レオン・スピリアールト展」

愛知県芸術文化センター10F愛知県美術館にて「レオン・スピリアールト展」(1100円)を見る。
音声ガイドキットレンタル料(500円)。
派手な油彩は一枚も無い!
レオン・スピリアールトがマイナーなのは、納得出来てしまいますね。(するなよ藁

●1902年2月2日の自画像
21歳時である。
「バンパイヤ」や「傷だらけの天使」時代の水谷豊に似ていて、どえりゃあかっちょええ!
冷たい美男子というよりは、ナイーブな少年という感じ。
これは、ミーハーの女性ファンが付いてブレイクしそうだな(藁

イーゼルに向かう鏡の前の自画像
27歳時である。
6年も絵を描いていて、俺様はハンサムだろという
単純に対象を写す絵を描いていたらヴァカであるが、
もちろん芸のある自画像に進歩してます。
顔の表情は影になってほとんど読み取れない。
一見すると骸骨のような不気味な絵に見えます。
そして、無間鏡の中にも自画像が連鎖しているが、
その全てのポーズが違うというメッセージ性溢れる傑作。
単純に鏡に映した様に、対象を再現する絵は底の浅い芸術だと訴えているのだ!(藁

●鏡の前の自画像
27歳時である。
こちらは無間鏡は描かずに、骸骨顔を強調しています。ジェイムズ・アンソールの「骸骨の鏡」より丹念に描き込まれた
遥かに巧い絵であり、作者の魂の嘆きもビシビシ伝わって来ます。
ムンクに似ていると言われるのももっともだと思う。

●ひとり
ただ
崩されるのを
待つだけ
ってギャグ入れるな(藁
カルロス・シュヴァーベの「苦しみ」のパクリだろと突っ込んでもいけない(爆
背後の空間の処理がシュヴァーベより巧いと思う。
謎の時代のデ・キリコのような寂寥感がある。
スピリアールトを判りやすく解説するなら、
やはり、デ・キリコムンク/2って感じ?
フリードリヒと黒の時代のルドンもちょっち入ってるか?

●鼻眼鏡の女
女性を描いても、10頭身以上の痩せこけた妖怪というか、
幽霊みたいになってしまうスピリアールトだが、
これは普通の人間に見えます。
ただし、襟までぴっちり閉めた黒服に黒帽で、肌の露出は、
右手首の先と顔だけであり、男性に見えます。
禁欲的で知的な芸術的な絵です。
女性の美を追求するのは、頭の悪い猥褻目的の絵だと良く理解出来ますね。

●突風
で、これがスピリアールト版「叫び」
雲ではなくて風、
男性ではなくて女性、
叫びを聞くのではなくて叫ぶ、
曲線ではなくて直線、
艶やかな油彩ではなくて、淡白な水彩画(というより墨絵に近い)。
どっちがインパクト強いかというとやっぱりムンクである。
スピリアールトは色彩が地味なので損してますね。

●めまい
展覧会の宣伝にも使用されているスピリアールトの代表作。
別名「魔法の階段」
超高層の階段というか塔から降りようとしている黒衣の女性の絵。
めくるめく幻惑感というか、眩暈感というか、不安感が伝わって来ます。
実は縮小された写真の方がシャープに見えて感動出来ます。
本物は塗りの荒さが気になりました。
小さな写真では、血までは見えないかもしれないが、
血なのか汚れなのか断定出来ません。

●女と海
●猟師の妻
後姿の女性がいる風景画。
と言ったらドイツロマン派のNO1にして、
世界一の風景画家のフリードリヒの十八番だが、
フリードリヒ同様、女の顔は芸術ではないと気付いたのは偉いが、
いかんせん、フリードリヒより雑な描線なので、
フリードリヒよりはインパクトが弱い。
フリードリヒより汚い分、絶望感、不安感のイメージは伝わっている。

●波打ち際の水浴の女
裸体画の筈であるが、逆光で女の顔も体も完全に真っ黒である。
女性の美しさ、神々しさを芸術作品にするのに、
リアルな肌色を使い、
「乳首は桜色のほんわかピンクだよな、ハァハァ…」
などと言っている奴は、猥褻目的だということがよく理解出来る作品である。
裸体画を見れば、その画家が本物の芸術家か否か判断出来る!
裸体を真っ黒な影で表現するスピリアールトは本物だ!
塗りは雑だけど(藁

●渚の少女たち
女学生たちの水泳の授業をモチーフにしたものらしい。
しかし、スピリアールトに可憐な少女の水着姿を期待するのは間違いである。(藁
水着姿になってるのは、教官のおっさんだけである。
少女達は手と顔しか露出してません。
で、唯一人顔が拝める少女が、骸骨顔ときたもんだ。
ロリコンを揶揄している素晴らしい絵ですな。(藁

灯台
色チョーク、パステル、水彩ですが、これは色鮮やかな作品です。
スビリアールトはベルギーのブリュージュ美術学校を3ヶ月で退学になってるので、
油絵の描き方は知らないと思われ。
美術学校を退学になり、油絵が描けずに、独学でプロになった画家というと、
フランスのオディロン・ルドンを思い出してしまうが、
やはり、スピリアールトはルドンのファンだったようで。
この作品はルドンの「アポロンの馬車」へのオマージュと解釈する。
古い灯台から新しい灯台へ飛行する、
虹の馬車に乗った光の妖精を描いたもの。
象徴主義よりはシュルレアリスムに近いような気がするが。
ちなみにルドン同様、スピリアールトも挿絵画家でもありました。
「青い鳥」で有名なメーテルリンクの「戯曲集」の挿絵も描いているし、
頼まれた挿絵依頼は全て引き受けたそうだから、
童話や児童文学関係で、意外とスビリアールトの絵はメジャーかもしれません。

●少女と犬
で、この画風の少女は、どっかで見たような気がするのだ。
骸骨顔ではなくて、鼻が無くて、
白目と瞳の区別が無い大きな真っ黒の目という、
如何にも不思議系の童話の挿絵に出てきそうなタッチ。
知ってる人は教えてちょんまげ。

●格納庫の中の飛行船
メカですぜ、旦那!
メカを描けない画家は軟派ですな。
柔らかい飛行船というより、硬いロケットに見えるかっちょええ絵。

●赤い空に渡り鳥の飛ぶ風景
超ロングショットで渡り鳥の数が上野顕太郎してる(藁
5万羽描かれているかどうか、誰か数えてみてくれ。

●塀の向こうの樹
寂寥感不安感漂う塀の向こうの枯れた樹。
塀の塗りはだだくさだが、樹は写真並みに上手に描かれています。
アンリ・ルソーに迫るぐらいには巧くなった晩年の作品。

●樹木
●灰色の幹
晩年は枯れ木オタクになったようで、これの描き込みは凄い。
在りうる風景だがシュールな幻覚に襲われる。

結論としては、スピリアールト展は当たりである。
ベルギー人画家は、マグリットもいるし、ジェームズ・アンソールもいるし、
ベルギーは世界ニの美術大国だと思う。世界一はもちろんスペイン。

売店で、
スピリアールト展の図録(2000円)
スピリアールトの栞(1000円)
ゴッホの礼装扇子(1000円)
を買った。
売店品揃え悪いです。
買うもんがない。
名古屋市美術館岐阜県美術館の方が揃ってます。
ゴッホは有名過ぎて恥ずかしいが、
好きか嫌いかといえば、好きな方に入るので、
モネやクリムトよりはマシだろうと、扇子を買った。
ルノワールグッズなんてどこの美術館でも売ってるが、
愛知県美術館売店は、手鏡とか油取り紙とか、
女性用の化粧グッズが目に付いた。
スピリアールトの手鏡も売っていたが、
男が鏡見てオシャレにウツツ抜かすなんて軟派で恥ずかしいので買いませんでした。
常設展もピカソとダリ1枚づつしか見るものがないし、
愛美は良い企画展の時しか行かなくて構わないよな。
もっともこの日はダリは常設から外れていましが(藁