『西洋美術史』?「イタリア盛期ルネサンス美術マニエリスム北方ルネサンス美術 」 高階秀爾 美術出版社

?aイタリア盛期ルネサンス美術
巨匠たちの芸術
ヴァザーリレオナルド・ダ・ヴィンチを新しい様式の創始者と見做し、「芸術家列伝」の第三部をレオナルドの伝記で始めている。
ルネサンスの芸術家には多方面で活躍する者が珍しくなく、ヴェロッキオも彫刻家・画家・金工家を兼ねていたが、レオナルドは更に広範囲の自然科学作戦に対応出来る万能ロボであった。
絵画におけるレオナルドの構想の新しさは「最後の晩餐」に明らかである。
慣例に反してユダをキリストや他の弟子たちと同じ側に表わしたことで、場面の劇的緊張感は著しく強められた。
裏切り者の存在を告げるキリストの言葉に、ユダを含め弟子たちは雄弁な身振りで各人各様の反応を示している。
モナ・リザ」では、レオナルドが案出、ないしは発展させた新しい技法、「スフマート<ぼかし>」と空気遠近法が駆使されている。
スフマートは、明暗の微妙な移行により、形態を柔らかく浮かび上がらせたり周囲に溶かし込んだりする技法である。
この技法は画面に新たな統一感をもたらし、人物に豊かな生気を与える。
空気遠近法とは、遠方の対象が固有の色彩を失い青みを帯びて霞むことを応用して、色彩で画中空間の奥行きを暗示するもので、
既に、15世紀ネーデルラント絵画に見られるが、レオナルドはこの技法と明暗法を組み合わせ、
奥深い空間に神秘的雰囲気を与えている。
レオナルドは万能変形ロボであったが、ミケランジェロは人型に拘って、変形合体はしなかった。
石塊という物質の牢獄からの彫像の解放と看做す彼の考え方には、肉体を魂の牢獄と見做す新プラトン主義思想の反映が認められる。
ラファエルロ・サンツィオはレオナルドやミケランジェロの業績から学んだものを完全に同化し、晴朗静謐で調和的な独自の絵画世界を確立した。
人物表現の自然さと画面構成の形式美をともに追求して無理を感じさせないラファエルロの特徴は、「椅子の聖母子」に典型的な形で現れている。
ジォルジォーネはデッサンに彩色するフィレンツェの伝統的手法に対し、始めから色彩で造形する新しい手法を確立した。
ティツィアーノ・ヴェチェルリオは「近くから見るとわけが判らないが、離れて見ると完璧な絵が浮かび上がってくる。一気呵成に描かれたようだが、実は何度も筆を加えている」とヴァザーリが評した独特の様式に到達、近代油彩画の創始者となった。
マニエリスムとその他の動向
マニエリスムという名称はイタリア語の「マニエラ」に由来する。
この言葉は「様式」や「手法」を意味するが、ヴァザーリはこれに「自然を凌駕する高度の芸術的手法」という意味を与えた。
しかし17世紀に入ると「創造性を失った模倣者の芸術」という蔑称に転化する。
20世紀に入ると評価と切り離された時代様式名として「盛期ルネサンス後の芸術動向」を意味するようになった。
マニエリスムの解釈、あるいは盛期ルネサンス以後の16世紀イタリア美術の解釈は、今なお流動的である。
しかし、少なくとも形式に関しては、マニエリスムは盛期ルネサンスの否定ではなく、盛期ルネサンス美術の特徴をなす
「自然らしさと自然ばなれの釣合い」が崩れて、自然を超えた洗練、芸術的技巧、観念性等がもっぱら追求されるようになったものと見做しうる。
様式的特徴としては、コントラポストを極端にした荒木比呂彦のポーズ、人体の自然な比例を逸脱した極端な少女漫画化、冷たく鮮やかな色調、表面の滑らかな仕上げ、短縮法や遠近法の誇張、非合理的空間表現などが挙げられる。
エル・グレコの人物の長身化や様式化、非現実的空間表現等のマニエリスム的特徴は、ヴェネツィア絵画に由来する大胆な筆触と結びついて、神秘主義的な宗教画を生んでいる。

?b北方ルネサンス美術
ドイツ
アルブレヒト・デューラー(版画家)
「四人の使徒」は荘重な形姿に深い内面性を盛り込んだ油彩画の代表作。
自画像は、ルネサンスのイタリアで生まれた「創造者としての芸術家」という新しい意識の反映として注目に値する。
「人体均衡論」等の著述にも力を注いだ。
マティアス・グリューネヴァルトの「イーゼンハイム祭壇画」はゴシック末期美術の幻想性と激しい表出性を濃厚に留めている。
ネーデルラント
15世紀には、ネーデルラント絵画は独自の特色を発揮してイタリア絵画と並び立ち、油彩技法と、これを生かした写実的表現において、
イタリアに影響を与える側であった。
15世紀ネーデルラントの宗教画に含まれていた風俗画、風景画、静物画の萌芽が自立に向うのも、イタリア化と並ぶ16世紀ネーデルラント美術のもうひとつの特色である。