『幽霊人命救助隊』 高野和明

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

本書のベストセリフ

八木「言葉だけ並べりゃ、あの戦争の正体が分かる。

   『進め一億火の玉だ』、『一億玉砕』、『一億総懺悔』

   ――日本人の本当の敵は鬼畜米英じゃなく、

   大日本帝国軍だったのさ」


もういっちょいくぜ!


モラルハザード――この国を動かしている連中に叩きつけてやりたい言葉だった。

倫理観の欠如した悪党どもが、社会の上層部に暗雲となって立ち籠めている。

庶民がいくら頑張っても、日の光が差すことはない。

みんなは世の中が悪いという。

だが、世の中を悪くした意思決定者は間違いなく存在しているのだ。

そいつらは「世の中」とか「国」とか「業界」とか、

様々な言葉を隠れ蓑にし、

個人としての名前も顔も公にせず、

責任もとらずにのうのうと生き延びている」


空気に影響される軽薄短小の日本人の群れに、

高野和明という実直な作家がいる事は、

日本人にとって救いである。

一年間で、交通事故死の三倍の三万人が自殺する

地獄の全体主義国家の日本!

自殺した四人は、わしが与えた命を無駄にしたと神の怒りを買い、

自殺希望者を49日間で100人救う罰を与えられ、

中有空間(煉獄)から現世に送り還される。

幽霊なので物理的に人間とは接触出来ないが、

一生懸命念じると、テレパシーとヒュプノが使える設定。

49日間で100人救えば、四人は天国に行けるのだ!

小説としての落ちは予測つくが、

100人の様々な自殺事例とその阻止方法が、

実用書としてとても参考になる。

自殺テーマなんて暗くなりすぎる懸念があるが、

ギャグやユーモアも交えた文体は楽しくサクサク読める。

死後の世界と死語の世界を引っ掛けたギャグは、

殺されて存在を許されない言葉、

キチガ○とかクルクル○○ネタにも発展し、大爆笑したw

自殺したいと思うのはキチガ○である。

精神障害は精神科で治療出来る。

肉体の病気から精神の病気に発展する場合もある。

国民を自殺させる罠が張り巡らされた地獄の日本に生きる、

全日本人必読の書。

自殺事例で子供のイジメ自殺はたった一件しか扱ってないのも、

統計的に正しくて好感を持った。

自殺者で一番多いのは中高年のおっさんである。

子供の自殺なんて年に300件程度。

正しい比率でたった一人の子供しか救わないのは、

作者はロリコンでないと推定されてよい。

自殺のあらゆる原因を網羅した力作だが、

イジメ自殺に対しては、谷沢永一のように、

自殺する前にナイフでいじめっ子の太腿をブスッと刺せ!

と明言して欲しかったな。

精神病ネタは精神科を受診するのが躊躇われる人に対して、

精神科ではなくて心療内科と表示する病院もあると解説しておくべきだったな。

例によって作者より教養が有り過ぎる私が悪いのであるが、

心療内科という単語を知らないとは、高野和明のリサーチは、

いつも詰めが甘いなと言わざるをえない。

悪の政治家や官僚や資本家がデカイ面して生きているのに、

自殺する理由なんてないのですよ。

テキトーに無責任に生きてもいいのですよ。