『皆月』 花村萬月 講談社文庫

皆月 (講談社文庫)

皆月 (講談社文庫)

本書のベストセリフ

「愚かでなければ、愛せない。

愚かでなければ、愛する資格もない。

もちろん、そんなことは口が裂けても言えない。

どうせ、誰かがどこかでおなじことを言っているだろうし、

そうでなくても、口にするには恥ずかしすぎる。

胸の裡にそっとしまっておくだけだ」


愛やオリジナリティや自己表現を揶揄した

素晴しいハードボイルド。

練りに練られた文章はエンタメと言うより、

純文学と言いたくなる人もいるかもしれないが、

読者を置き去りにしても自己表現を追求する

糞純文学とは違う素晴しいエンタメである。

ハードボイルドの主人公は、

酒飲んで女抱いて暴力を振るわないといけないので、

何も出来ないヘタレよりは、

悪い事をやりまくる悪漢に近くなるが、

本書は正義と悪、我慢と自己表現の匙加減が素晴しい。

アウトロー社会に関係することになるが、

主人公は妻以外に女を知らなかった

真面目な元サラリーマン(CAD技師)なので、

アクションが滑りまくって、

かっこ悪いのにかっこいい!というのがたまりませんわ!

暴力沙汰に巻き込まれても、もちろん敵に叩きのめされるw

歯を折られ40代で入れ歯人生ww。

そんな主人公であるが、やくざに敬服されるようになる。

何度地に這い蹲ろうとめげずに立ち上がってくる根性に敬服などという単純な話ではない。

逃げた妻を捜す話だが、

よりを戻す為でもないし、復讐する為でもない。

人にとって一番大事なのは生きる姿勢だと勉強になる感動作品。

セ○○スシーンが多過ぎるのは欠点だが、

悩む若者を救うバイブルとして有効だと思う。

自己表現出来ないひきこもりのうざいオタクにも、

表現が激しすぎて人を殺したことがある不良にも、

本書は救いになると思う。

本で救われる事に気づかずに、

自分一人で内省して悩んだり、

外へ向かって暴れたりする、

未熟な若者はほんと可哀想。

過去の事はいいんだよ。

夜回り先生が助けてくれなくてもいいんだよ。

救いは本の中にあるのです。

漢字そのものの中にもあるのです。