『アイスワールド』 ハル・クレメント ハヤカワ

ハードSFと言っても色々ある。

クラークの哲学的詩情、

アシモフの架空論理性、

ブリッシュの超絶的な晦渋さ、

ホーガンの徹底された疑似科学

石原藤夫の数学的幻想性などなど。

人によってハードSFの分類も違うだろうが、

ハードSF作家と呼ばずに何と呼ぶ!

というぐらいのクレメントの作品は、

化学の実験レポートを小説の形にしたようなものだろう。

小説としてのストーリーはオマケである。

本書はクレメントの欠点(それは同時に魅力でもあるのだが…)

がもっとも顕著に現れている。

化学の実験描写にこだわりすぎて、

ストーリーらしきストーリーがないのである!

500℃の硫黄の大気を呼吸する異星人が、地球を発見したらどうなるか?

そう、アイスワールドは地球のことです。

時代は第一次大戦後、鉱山師は、とある山奥で、異星の無人交易船とのコンタクトに成功した。

地球人は貴金属をもらい、その交換品としてタバコを提供した。

気化したタバコは異星人には麻薬と同じ働きをした。

異星人側も種族を代表しているわけではなかった。

個人的な商船である。

異星人政府は、恐るべき麻薬の正体を探るべく、

一人の化学者をGメンとして任命し、商船に潜入させた。

この物語は、Gメン化学者が、商船のボスにタバコの栽培方法を探せとあおられながらも、

もちまえの好奇心で、アイスワールドを探査するお話である。

異星人の外見は手が四本あることを除けば、ほぼ人間に等しく、

これも作品の魅力を半減させている。

Gメンなんてレンズマンでたくさんだw

主人公自身、自分が銀河一の化学者じゃないことを認めているが、

地球の大気に酸素があることにもなかなか気付かず、

超光速航法する異星人にしては、知的レベルが低すぎる!

もっともこの作品は「20億の針」の次に書かれたクレメントの第二作で、

針シリーズはミステリ仕立てだから、

この作品はクレメントが始めて読者に挑戦したハードSFと言っていいだろう。

読者に優越感を持たせる為、わざと馬鹿な化学者を設定したのかもしれん。

貴方も500℃が常温の世界の化学者になったつもりで、地球を探査してみて下さい。

主人公よりどれだけ早く地球の正体を知ることができるか?

化学実験が好きで、元素の周期律表を眺めていれば一日すごせる人なら、

本書はこたえられん快感を与えてくれるでしょうが、小説読んでワクワクしたい人は読んではいけません。

クレメントのワースト1。

それでも馬鹿なギャグやエロがないので、石原藤夫の「ランダウの幻視星」よりはマシw