『ダーク』 桐野夏生 講談社文庫

ダーク (上) (講談社文庫)

ダーク (上) (講談社文庫)

ダーク (下) (講談社文庫)

ダーク (下) (講談社文庫)

女探偵"村野ミロ"シリーズ第四作。

好きになった男が自殺してしまう

うっとおしい女探偵村野ミロ。

二人目の自殺者が発生し、彼女は狂った!

2年後に自分も自殺することにして、

好き放題に暴れ回る!

まずは父を殺す!

そして、友人知人から金を奪い、韓国へ高飛び!

日本の警察と暴力団に追われる主人公ミロの運命は?


いやぁ〜、凄かったです。

上下巻一気読みしますた。

これぞピカレスクロマン!

悪漢を気取っていても、

肉親を大事にする小市民みたいなピカレスクもあるが、

ミロは父を殺し、我が子も敵に売り飛ばすw

ベタベタした家族愛、組織愛がない、

本物のピカレスクというか、

正義も悪も、愛も憎しみも超克した素晴しいエンタメ。

暴力団もサラリーマンも、金を稼ぐ為に組織に属してる点では同じだと、

自称男気の任侠やくざも馬鹿にしてる視点が素晴しい。

純文学臭いうざい描写は一切ないページターナーだが、

人生訓の教科書としても有効。

もっとも大事なのは、生きる決意。

目的が正義だろうと悪だろうとどうでもいい。

決意を固めて強く生きろ!

都合が悪くなったら決意のベクトルを180度転向させてもOK。

決意を固めて強い心を作る訓練が大事だと説く、

生きるのが楽になる哲学の書でもある。

憎しみで生きるのもOK。

強く憎む心は強く愛する心に転換するかもしれない。

一番駄目なのは、どうでもいいやと自殺すること。

ナルシストの馬鹿な自殺者を揶揄してる視点も素晴しい。

生きる強い心がないので自殺するんだろうが、

諦めるのが早すぎるざんす。

どうしても自殺したいのなら、

家の中で首を吊るんでなくて、

路上で血を流して倒れるべき。

おせっかいな悪人が助けてくれるかもしれませんわよ。

ミロが都合よく新しい味方に出会ってしまうのは、

ご都合主義過ぎて欠点だが、

カタルシスと喪失感のバランスも素晴しい、

絶妙のストーリー展開のエンタメの傑作。

味方になる韓国人マフィアの過去のエピソードとして、

光州事件が語られるが、

光州事件のエピソードだけでも、

佐藤亜紀 の『ミノタウロス』 を超えている。

女主人公のノワールとして、

ボストン・テラン の『神は銃弾』 ともいい勝負である。

女主人公だから敵に犯されるのは共通しているが、

犯されて妊娠してしまうこっちの方が凄いか?

セクースしても自分が妊娠する危険のない

男を主人公にしたノワールはお気楽な安全な世界だねw

ジェンダーものとしても異性嫌いのキャラが多く出て好み。

女の腐ったようなオカマさんも出ますわよw

危ない障害者ネタも満載。

桐野夏生ルイ=フェルディナン・セリーヌ に匹敵すると思っていたのは、

私だけかと思っていたが、解説の福田和也も言及してるので、

自信を持った。

ルイ=フェルディナン・セリーヌ に匹敵する真実の文学である。