『金春屋ゴメス』 西條奈加 新潮文庫

何故か長い間「金物屋ゴメス」だと思い込んでいたw

金春屋とは飯屋の屋号だが、

その隣に建物がある独立国家江戸の

長崎奉行所出先機関のコードネームでもある。

月面都市もある未来に、日本に誕生した独立国家江戸を舞台にしたファンタジー

というか、SFと言っていいと思う。

子の命を想う母の想いより尊重されるべき

エコロジー国家江戸の理が筋が通っていてデラかっちょええ!
自然と共存、地球を大切にと、

テックレベルを落した生活を選んだ者が、

人間の命を救う為に西洋医学に頼るのは間違っている。

地球よりも自分の命の方が大切なのに、

エコを叫ぶ似非エコロジストを揶揄した大傑作!

覚悟を決めて理想国家を運営する素晴しい人間たちのドラマ。

男達ではなくて人間達です。

江戸時代のテックレベルだが、

大名や旗本に女性がいるのが、

未来社会に再現された江戸として、

素晴しいジェンダーSFでもある。

ひきこもりやイジメや細菌テロもモチーフになる

社会的問題意識も素晴しい!

ひきこもりは、江戸時代の農業体験で直せるが、

自然との共生がベストだと主張してない

価値観の相対化も見事なSF。

テックレベルが上がりインターネットがある世界では、

自宅にひきこもったままで、

金を稼ぐことも可能である。

ひきこもりが直せるとしても、

直す必要がないという見方、

それぞれの価値観、生き方を尊重しようという視線が素晴しい。

人間が多すぎるのがエコ問題の根源。

エコ国家江戸への移住は制限(希望者は300分の一の確率の籤に当選しなければならない)

されているが、

エコ生活が合わないと思う人には、

文明社会に帰る自由を江戸政府は認めている。

政府というものは、国民の利益を掠め取る集団で、

国民が多ければ多いほど、

政府・役人の私益も増える理屈だが、

理想国家江戸は足るを知っているので、

被支配者を増やそうとしないのも素晴しい。

理想だけでなくて、理想をくいものにする悪の組織も登場するのが素晴しい。

主人公は長崎奉行ゴメスに仕える下っ端だが、

悪の組織との戦いで、味方に敵のスパイがいるのでは?

というミステリとしての楽しみもあります。

日本ファンタジーノベル大賞には外れがないですよね。

金春屋ゴメス (新潮文庫)

金春屋ゴメス (新潮文庫)