『グロテスク』 桐野夏生 文春文庫

語り手の"わたし"が、『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』 で

有名になったバージェス動物群のファンなのが素晴しい。

ルイ=フェルディナン・セリーヌ が訴えた人生の無意味さを

進化論で補強しようとする素晴しい知的興奮に溢れる本。

繊細な"わたし"が自己陶酔して苦悩ごっこする似非文学ではなくて、

ルイ=フェルディナン・セリーヌ に匹敵する真実の文学!

無駄な苦悩、無駄な努力をしたくない人は必読。
努力が必ず報われると信じている世間知らずの人は、

挫折する前にこれを読んで世の中の真実に気付いて下さい。

語り手の"わたし"は翻訳家に成る夢が破れた37歳の処女のフリーター。

超美少女でモテモテの妹と、

名門女子高時代の同級生達の数奇な人生が彼女によって語られる。

彼女が毒舌で語る美少女や天才少女のエピソードがメインだが、

彼女に語られた人物の手記(彼女に言わせると嘘ばかり)も挿入され、

何が事実なのかを推理するミステリとしての楽しみもあるが、

語り手が捏造してるとしても世の中の真実を訴えた素晴しい文学である。

日本の女流作家にこんな知的レベルの高い人がいたとは驚きだ!

友人も恋人もいなくても楽しく生きていけることを教えてくれる

生命体のバイブル。

突然変異して生き残ったものが、

生命体として進化したとされる勝利者である。

ハルキゲニアのような素晴しい人生になりますように…。


本書のベストセリフ

「わたしはこれまで生きてきて、

悩んだことなんてほとんどありません。

それは現在も同じです。

わたしは悩む前に結論を出して、

そのように行動するからなのです。

人は容易に結論が出せないから悩む、

とおっしゃるのですか。

結論を出すなんて、

とても簡単なことではありませんか。

自分の身の丈に合ったことは何か、

を常に考えている人間には悩みなど生まれません。

日光が足りなくて光合成ができないなら、

その植物は枯死するしかないのです。

間引かれる運命になりたくなければ、

光を遮る丈の高い植物を倒すか、

光合成をしなくても生きられるものに存在を変えるしかないのです」

グロテスク 上 (文春文庫)

グロテスク 上 (文春文庫)

グロテスク 下 (文春文庫)

グロテスク 下 (文春文庫)