『本番台本』 ギャビン・ライアル 菊池光 訳 早川ミステリ文庫

冒険小説なのに、危険な事が嫌いで、

冒険しない男を主人公にした斬新な作品。

朝鮮戦争で敵機を撃墜したこともあるが、

厭戦思想に目覚め、

軍は辞めて輸送機ダヴで運び屋になった男。

人殺しはもちろん、ギャンブルもしない真面目な彼だが、

カリブの某独裁政権と革命軍の争いに巻き込まれ、

愛機ダヴを取り返す為に、

オンポロのB25でジェット戦闘機を駆逐しなければいけない羽目になる。

飛行場に駐機しているところを爆撃すれば、

人殺しせずに目的は達成出来る。

だが爆弾は官憲に見つかり押収される。

戦後民間輸送機に改造されたB25なので機銃は撤去されている。

正規の四分の一の発射速度しかない機銃を一丁据え付ける事は出来たが、

目標の戦闘機は12機。

主人公は任務を果たすことが出来るのだろうか?


航空機の細かい知識の書き込みが、

『もっとも危険なゲーム』 や『ちがった空』 より多くて、

私は『深夜プラス1』 の次にこれが好きですらー。

珍しくヒロインと恋仲になるが、

セ○○スシーンは描写されてません。

例によって女よりも金よりも飛行機が好きな魅力的な男が主人公である。

車は幼稚な男のセックスシンボルだという視点もイイ!

プロのパイロットだから車の運転がヘタでも

恥ずかしいとは思わない主人公はとても魅力的。

彼の男の面子を潰したかと誤解したヒロインが、

彼に自分のスポーツカーを運転させて

名誉挽回させようとするシーンがあるんだが、

彼は平然と助手席に座る。

パイロットとしての自分の教え子のスポーツカーに乗った時も、

教え子の運転速度が速すぎて耐えられないと

降ろしてくれという素晴しさ。

男は車をかっちょよく猛スピードで運転出来なくてはならない

という古臭いジェンダー観を否定した、

時代を超越した傑作である。