『夜市』 恒川光太郎

夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)

本書のベストセリフ

「少女は学校に行っている。洋服からみて裕福な家庭の子供だ。

比べて、自分は学校には行っていない。

だから文字すら満足には書けない。独学で勉強をしているが…。

 少女は成長すれば、自分のような無学な労働者を馬鹿にするような女に育つだろう。

これまで何度も馬鹿にされてきたからわかる。

 ふと怒りが芽生えた。

 何も知らないくせに。

 全てを与えられ、自分が全てを与えられてきたからこそ

高慢でいられるということも知らないくせに。

少女は同じような家庭で育った男と結婚し、幸せを手に入れるだろう。

 男の中で暗い感情が広がっていった。

 少女を捕らえるのは簡単だ。

捕らえてどうするのか?」


こう来ると普通は拉致して監禁していたずらして拷問して強姦して殺して

死体を食べるもんだが、

そんな捨てろタイプの物語にはなりません。

社会派経済ホラーである。

妖怪達が店を出す夜市に紛れ込んでしまった人間達の物語。

夜市には何でも売っている。

日本円が流通しているが、代価も金でなくてもいい。

ただし、何かを買わないと永遠に夜に閉じ込められる。

弟を売って野球の才能を買った青年が、

弟を買い戻す物語と思わせて、

物語は意外な展開を見せる。

よくある悪魔との契約ものの短編と思わせて、

中篇として見事な展開をみせる。

長編でも書けるネタである。