『レダ』 栗本薫

レダ1 (ハヤカワ文庫JA)

レダ1 (ハヤカワ文庫JA)

レダ2 (ハヤカワ文庫JA)

レダ2 (ハヤカワ文庫JA)

レダ3 (ハヤカワ文庫JA)

レダ3 (ハヤカワ文庫JA)

本書のベストセリフ

ミラ「ユニークなんてことは――下らない。ガキっぽいね…

   おれは、ユニークであろうと努力したり、

   ユニークと呼ばれてよろこぶという、

   そのこと自体が、

   そいつらがいかにとるに足らないかっていう証明のような気がするね。

   アーチスト…デザイナー…クリエイター。

   やつらはみんな、安心してられないんだ。

   だって、『おれはおれだ』といいきれるものを、

   何にももっていないんだからな…」


完璧な自由平等平和が実現した未来社会を舞台に、

人間の存在意義を思索した珠玉の少年の成長物語。

特筆すべきは犬SFとしても傑作であるということであろう。

語り口が饒舌すぎて、

物語性は薄いので、

つまんないと思ったら途中で投げ捨ててもOK。

私はハードカバー二段組600Pを読んでしまったが、

読んでない人は文庫の一巻のみを買うようにね。

栗本氏の結論は、

SFとしてはよくある当たり前の結論で、

センスオブワンダーは少ないが、

栗本氏なのでジェンダーSFを期待すると、

そうはならないので、少しは意外かもね。

ヒーローに成長する少年が、

最初は能力は全て平凡(知能も体力も芸術性も)で、

体格は小柄で、名前が『イヴ』!

ヒロイン『レダ』は奇跡のように「醜い」少女で、

人間より物体に似ているという魅力的な設定なので、

中盤で絶対、ヒーローとヒロインが性転換してセクロスすると期待したのだが、

そうはならず、少年は普通に立派な男に成長してしまいますw

一切の差別がない理想社会なので、

同性愛もOKだが、

少年とスパルタブラザーの801シーンも無かったのも残念。

て、栗本薫に何を俺は期待してるんだかww

社会学SFとしては残念ながら世界に通用するレベルではない。

貨幣経済と教育体制の思索がやや甘い。

理想の未来社会と言っても、

国家が解体し、地球連邦の下に直接自治都市がある設定で、

日本の未来都市ファーイースト30が舞台で、

ファーイースト30の管理官(政府とは自称しない)は、

ファーイースト30が世界一素晴しい理想社会だと思っているが、

実は天才だった主人公に、

理想社会の化けの皮を剥がされるという話です。

完璧な理想社会なんて存在出来ないというSFとしては当たり前の結論に達するが、

理想が存在出来ない、人間というか、

生命が生きることが宇宙を乱す悪しき行為のようなものだと認識してしまった主人公が、

それでも「全て良し」と悟り、

自分の敵の存在にも敬意をはらうようになるのは感動的なのだろうが、

宗教的な悟りみたいで、ちょっと興醒めしますた。

犬SFとしてブレイクスルーして欲しかった。

暴走族に轢き殺された愛犬が、

恨みでなくて、主人公への愛のメッセージとして

尻尾を振りながら死んでいくエピソードをもっと感動のパワーポイントとして欲しかった。

餌さえもらえれば誰にも尻尾を振る浅ましい犬という概念があるが、

犬は犬同士で群れも組むし、

群れに属さず一匹で生きることもあるし、

人間の友として飼い慣らされる生き方も出来るのである。

孤高に生きる能力も、協調して生きる能力もある犬は素晴しいですな。

愛など無くても生きていけるが、

愛を与えられれば、愛を返す犬は素晴しいですな。

愛の押し付けをしない、愛が必要な人に愛を返す、

人類の友の犬さんマンセー

犬好きの人は本書を読んだ方がいいでしょう。