『思想の運命』 林達夫 中公文庫

思想の運命 (1979年) (中公文庫)

思想の運命 (1979年) (中公文庫)

唯物論無神論で論理を展開する知のブローカー、

昭和の思想家ベスト20を選べばランクインすると思われる、 知識オタクの林達夫が、

全ての小説家は情けない盗作野郎であると看破した傑作。

林達夫に言わせれば、シェイクスピアさえ、大剽窃家である。

こう書くと、毒舌家みたいだが、

文章は上品で平易で判り易いです。

盗作問題は、完全なオリジナル作品なんて存在しないのだから、

他人の作品の末梢些細な類似点を、いちいち盗作だと騒ぎ立てるなという論旨です。

中途半端な知識をひけらかす二流をギャグのネタにしている林達夫は一流である。

気取らずに、ユーモア溢れる語り口が素晴らしいです。

編集者時代に日本に百科事典ブームを巻き起こしたのは林達夫の功績である。

晩年は、大学教授としても学生に人気大爆発したが、

左翼寄りだったせいか、大学もろとも潰されましたw

大学教授というステータスの高い職に付いて、

若い学生に囲まれる生活を望んで、林達夫は知識を蓄えてきたのではない。

文芸評論家として評価されることが多いが、

林達夫の本質は昆虫オタクの少年である。

ファーブル昆虫記の訳者でもあります。

自宅の庭で昆虫と戯れる生活が林達夫の理想の生活であり、

それは比較的早く実現したので、

大学教授の職など、林達夫にはどうでもいいものだったと思われる。

知識を武器に、金と女と名誉を求める奴は二流だよね。

素晴らしい昆虫の名前を知りたいという、純粋な知識欲で生きた林達夫は一流だよな。

欲望は膨らむもの、昆虫以外に様々な知識を蓄えてしまった林達夫は、

文芸以外に、美術評論もしているが、

私が世界一だと思ってる美術評論家高階秀爾大先生の

本の遠近法

でも本書は解読されています。

一流の薫香は一流を呼ぶ。

林達夫高階秀爾が解読するなんて、凄い知的興奮ですな、ハァハァハァ…。

一流繋がりで言うと、福田恒存を発掘したのは林達夫です。

林達夫の唯一の汚点は、哲学者としては京都学派寄りということです。

西田哲学を最初に読んだ時は、「凄ぇ!」と私も思いましたが、

西田幾多郎和辻哲郎はダメポと、松本健一が言っていたので、

私は松本先生の意見を尊重したい。

固めの評論書ネタ、滅多にエントリしないので、ついでに強調しておくと、

私が一番好きな評論家は、実は谷沢永一大先生です。