『天使と罪の街』 マイクル・コナリー 古沢嘉通 訳 講談社文庫

天使と罪の街(上) (講談社文庫)

天使と罪の街(上) (講談社文庫)

天使と罪の街(下) (講談社文庫)

天使と罪の街(下) (講談社文庫)

“ハリー・ボッシュ”シリーズ10作目。

導入部の掴みの凄さにぶっ飛んだが、

中盤は淡々とした感じ。

コナリー作品はドンデン返しが3転するのが普通だが、

本書は一回しかない。

本格推理小説としては物足りないが、

コナリー小説として、小説の常識を破壊する凄いアイデアが埋まっています。

そのアイデアは危険すぎるので、

本格展開してないが、

優生人類保護法案が可決され、

劣等な小説家を虐殺する時代が来た時、

たった一人生き残る小説家を選択せよと迫られたら、

それはマイクル・コナリーで決定だという、

世界一価値のある小説家としてのコナリーの存在を認める凄いアイデアが埋まっています。

コナリーよりイアン・ランキン やディーン・クーンツ の方が好きだと私は言ってきたが、

世界でたった一人生き残るのならコナリーを選ぶ。

全ての小説はコナリーの小説を楽しむ為の前座でしかないのだ。

本書には登場人物としてイアン・ランキン とディーン・クーンツ が出てくるのです。

イアン・ランキンボッシュはすれ違って出会ってないが、

シリーズのレギュラーキャラのキズミン・ライダーは、

ディーン・クーンツ に出会っているのです。

実在する作家を登場人物にするというのは、

ジェイムズ・P・ホーガン 作品にアイザック・アシモフ が出てくるし、

ジョー・ホールドマン 作品にアーサー・C・クラーク が出てくるし、

単なる仲間内のお遊びに思えるが、

このコナリーの場合は、自分ではない作家を作品に取り込むことで、

他人の小説世界も取り込んでしまおうという気概を感じる。

今回は被害者が成人したおっさんばかりで、

まるでイアン・ランキン の世界である。

そしてラストはディーン・クーンツ のホラーの世界への扉が開かれることを期待させるとんでもない文がある!

イアン・ランキン がいなくても、

ディーン・クーンツ がいなくても、

コナリーが二人の世界を引き継いだ小説を書くであろう。

小説界最大の敵、著作権の壁さえコナリーは破るであろう。

世界一存在する価値があるのはマイクル・コナリーである。