『エンジェルズ・フライト』 マイクル・コナリー 古沢嘉通 訳 扶桑社ミステリー文庫

エンジェルズ・フライト〈上〉 (扶桑社ミステリー)

エンジェルズ・フライト〈上〉 (扶桑社ミステリー)

エンジェルズ・フライト〈下〉 (扶桑社ミステリー)

エンジェルズ・フライト〈下〉 (扶桑社ミステリー)

本書のベストセリフ

ハリー・ボッシュ「くそったれTVめ」

カーラ「TVがどうかしたの?」

ハリー・ボッシュ「いつものごとく過剰反応している」

          「火事が一件起こっただけなのに、

          連中はみんな現場に駆けつけて、

          炎を放送している。

          それがなにをもたらすかわかっています?

ガソリンを注ぐようなものだ。

          広がっていく。

          人々はリビングルームでその放送を見て、

          なにが起こっているのかと見ようと外に出てくる。

          集団が形成され、流言蜚語が飛び交い、

          人々は怒りを抑えることができなくなる。

          次々と連鎖反応が起こり、

          マスゴミがこしらえた暴動が発生するんです」

“ハリー・ボッシュ”シリーズ6作目。

垂直上昇で持ち直し、本格推理小説として四つ星だが、

文学として五つ星を与えたい。

リーダビリティに優れたエンタメだが、

TV、マスゴミを利用する自称文学者より、

コナリーの文学の方が遥かに価値がある。

権力の監視機構ではなくて、

自らが権力となり、

大衆を煽動して国家国民に害を与えるマスゴミは社会の敵である。

強大な権力を持つマスゴミや資本家に対して、

ボッシュの闘争は完全勝利を得ることは不可能だが、

逃走せずに戦い続ける道を選ぶボッシュはデラかっちょええ!

思想的な面を抜きにしても、

終盤の加速する展開の構成が素晴しい!

終盤の技法を追求すれば、

前衛的実験文学になると思われる。

ガルシア=マルケスを見事な構成力のテキストとして、

教材に選ぶ大学もあるが、

本書も小説家の教科書になるべき見事な構成である。

本格推理小説としてラストの謎解きのシーンも見事にアウフヘーベンしている。

本作を読んでしまったら、

ラストで容疑者を古い洋館に一堂に会して謎解きする古典ミステリが糞に思えてくる。

遂にクイーンの「Yの悲劇」を抜いた結末のミステリが現れた!

「Yの悲劇」を抜いたのなら本格推理小説としても五つ星になるべきだが、

途中のミスリードやミスデレクションにややアンフェア感を抱いたのが減点材料。

面白い小説としては五つ星である。

妻との破局問題がどうでもよくなる圧倒的展開は凄い。

愛などという感情の問題も、

論理の面白さの問題も超克した優れた小説である。

エンタメと純文学の制限を軽々と飛び越えた傑作。

天使のように美しい少女は天国に飛ぶ。

堕天使は地獄に飛ぶ。

メカは何も考えずに上がったり下がったり…。

本書の素晴しさが理解出来ない奴は本を読む必要はないです。

映画観て泣くか、阿呆面してTV見て一生を終えて下さい。

本物の素晴しい男に感動したい男はコナリーを読め!