『ナイトホークス』 マイクル・コナリー 古沢嘉通 訳 扶桑社文庫

私はハードボイルドが嫌いである。

ハードボイルドは痩せ我慢の美学の文学と言われるが、

煙草、酒、女、暴力に対して、

少しも我慢せずに、

欲望の趣くまま気障なセリフを呟いて行動する主人公は、

ハードというより軟弱なゴロツキとして唾棄していた。

本書もハードボイルド扱いされるが、

ハードボイルドのガジェットが、

ストーリーの謎解きに密接に関係している本格推理と言った方がいい。

本格推理として新しいネタがあるわけではないが、

スリードを警告する文がミスディレクションになっていたりして、

見事に私は騙されて感動しました。

本格マニアは途中で真犯人の目星は付くと思うが、

それを誤魔化す見事な伏線があり、

ラストで真犯人を提示する論理が展開される場面は、

もの凄いカタルシスであった。

ハードボイルドが嫌いな人こそぜひ読んで欲しい。

コナリーはエラリー・クイーンを超えると期待出来る。

この作品も「Yの悲劇」に匹敵する。

カーに比べると若干のアンフェア感もあるが、

アホサ・クルッテリーよりは、遥かに上質なフェアな本格推理小説である。

表向きは単純なハードボイルドに思えてスラスラ読めるが、

本格推理としても感動出来るのである。

難しい漢字使わない開いた訳文も巧く、

情報量のGETと感動のアウトプット、

感動のコストパフォーマンスを計算したら、

世界一の小説とも言えるかもしれない。

ベトナム帰還兵の刑事が主人公なので、

社会的問題意識を培うのにも有効な反戦文学、

生きる指標を与える純文学として深読みすることも可能。

コナリー読まずに死んではダメポ。

何の能力もないスラムの住人にさえ、

この本は生きる力を与えるだろう。

現代の聖書としてベストセラーになるべき小説。

全ての文学は、コナリーの小説の外伝にしか過ぎないと期待出来る、

天才作家がコナリーである。