『セント・メリーのリボン』 稲見一良 光文社文庫

セント・メリーのリボン (光文社文庫)

セント・メリーのリボン (光文社文庫)

「焚火」

「花見川の要塞」

「麦畑のミッション」

「終着駅」

「セント・メリーのリボン」


の五作が収録された珠玉の短編集。

ハードボイルドと流布されているが、

戦争ファンタジー(戦争メルヘン?)の「花見川の要塞」が大傑作。

これは長編で読みたかったな。

同じく戦争物の「麦畑のミッション」もイイ!

望月三起也松本零士新谷かおる島本和彦の戦場マンガや、

仮想戦記ものが如何にくだらないか痛感できます。

「終着駅」は並。

「焚火」「セント・メリーのリボン」はハードボイルドだが、

都会派ではなくて田舎派なのが凄く新鮮。

大都会で気取っているハードボイルドってチャンドラーのパロディにしか思えないが、

本書は、自然賛美、犬賛美している大人の為の落ち着いた素晴しいハードボイルドである。

「焚火」はいきなり最愛の女性が銃撃され殺されるシーンから始まるので感心したぞ。

普通のハードボイルドなら復讐譚になるところだが、

主人公は逃げるだけ。

敵を撃退するのは渋い農夫の爺さん(この爺さんがデラかっちょええ!)

若者に媚びてない大人の為の小説である。

不夜城」の五倍以上の価値がある傑作集。

都会で苦悩する青年は馬鹿としか思えない。

自然が豊富な田舎に行けば癒されるのに、

都会に拘るから酷い目に会うざんすよ。

構成力、表現力はややヘタクソだが、

作者の志の高さは伝わってくるので、

稲見一良は全作読むべき作家である。

こんな素晴しい作家がもう死んでいるなんて、

神が存在しない証拠だな。