『海底牧場』 アーサー・C・クラーク  高橋 泰邦訳 早川文庫SF

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海洋SFというサブジャンルを確立したSF史上に残る作品。

長編海洋SFとしては世界一。

問題は長編海洋SFなんてほとんど存在しないことだがw

短編も含めても、クラーク以外に書いた奴って、

ブリン、セント=クレア、グリムウッド、メルル、ニーブン、小松左京安部公房ぐらい?ww

で、本書であるが、

宇宙飛行士が宇宙の事故で宇宙恐怖症になり、

無重力に似た環境の海底牧場のカウボーイとして第二の人生を始めるという話です。

SFの主人公は宇宙飛行士とか科学者とか、一般庶民に比べれば、

エリートぽい職業の人物が多いが、

宇宙飛行士としてはダメポの烙印を押された

アンチヒーローを主人公に持ってきた視点は、

現代に読んでも新しいかもしれない。

挫折した主人公の葛藤が心に迫ります。

負け組のダメダメ主人公だが、

自分の命を犠牲にして、

他人を助けて海の底に沈んでいくラストは泣けます。

宇宙で失敗した主人公は、海でも失敗するわけにはいかない。

二度も職務に失敗して生き延びたら、

社会人としてのプライドは完全に崩壊する。

自分が勝ち組ならOKという、

野蛮なゴロツキの自己中がデカイ面してのさばっている現代日本でこそ読まれるべき作品か?

まあ、勝ち組は、共感能力のない人格障害者が多いから、

自己犠牲の物語なんて感動しないかもしれないが…。

「楽園の泉」のコーラ警報のシーンに感動した人は、

本書も感動して泣いてしまうでしょう。