『かくも短き眠り』 船戸与一 集英社文庫

かくも短き眠り (集英社文庫)

かくも短き眠り (集英社文庫)

ハードボイルドでこのタイトルは、

あの有名作に喧嘩売ってるとしか思えないなw

期待通りの異色作。

導入部で暴力が炸裂し、

よくあるハードボイルドかと思ったら、

それ以後は、主人公はほとんどアクションしません。

金で暴力を回避出来るのなら、

主人公はチンピラの恐喝を素直に受け入れます。

チンピラに敬語を使い許してもらう場面もあります。

金持ち喧嘩せずが真理ですよねw

主人公は空手の達人で、

フランス外人傭兵部隊から更に選抜された、

殺しと破壊工作のプロであったが、

冷戦終結後、工作員としての仕事がなくなり、

ドイツの法律事務所に調査員として就職して、

主に人探しの仕事をする。

5年前にチャウシェスクファシスト政権を倒して、

ルーマニア民主化したのは、

主人公が属していた裏のコマンドチームの活躍があったのだが、

その時の知り合いはほとんど行方不明になってる。

主人公の妻も失踪して行方不明。

人探しの為にルーマニアに潜入した主人公は、

失踪した妻とコマンド時代の隊長が結託し、

ルーマニアで暗躍しているのに気付く。

ルーマニアのテロリスト間や政府との戦いに巻き込まれながら、

主人公は、人探しを続ける。

過去と現在の知り合いが複雑に絡み、

主人公は結局翻弄されるだけで、

何も解決出来ず、全てを失う話。

人は全て壊れている、

素晴しい人生への再生なんてないという、

バッドエンドがデラ良かったです。

ただひとつの救い、人が生きる理由は、

職業倫理を真っ当する為という、

人生哲学も良かったです。

真面目に働いて金を貯めて、

平和に隠居するのが人生の目的である。

愛する人も、友人も、恩人もいなくなってもOK。

ある程度真面目に働けば、

金は貯まるので、それでのんびり暮らせばいいという話。

こんなに暴力を否定したハードボイルドは初めてだ。

文章はヘタクソだが、志しは高いので、

船戸与一の外国ものは全部読むつもり。

これだけが、例外で、

他の作品ではエロスとバイオレンスを賛美していたら、

すぐにポイするけどな。