『胡蝶の失くし物―僕僕先生』 仁木英之

「職業兇徒」
「相思双流」
「主従顛倒」
「天蚕教主」
「回来走去」
「恩讐必報」

の六編が収められています。

正義と愛と友情の為ではなくて、

幸不幸の相克も超越し、

面白いトラブルを求めて僕僕一行ののんびりした旅は続く。

ノーテンキなハッピーエンドとは限らない旅なのが深い。
無敵の仙人僕僕が本気になれば、

トラブルなど一瞬で解決出来る筈だが、

雲に乗って飛ばずに、

地道にテクテク歩いて旅する理由や、

トラブルの解決策の必然性の理由付けが巧い。

というか解決せずに悲劇を見届けるだけのエピソードもあります。

万能に思われた僕僕仙人が唯一出来ないことも語られます。

人は誰でも何かを失くす。

だが、得るものもあるだろう。

全てを失くしたと思い込み自殺したくなっても、

探せば生きる理由はあるよ、

という作者の暖かいメッセージが伝わってきます。

トラブルで自殺するなんてアフォ。

トラブルを楽しむ心の余裕を持とうぜ!

何の役にも立たないニートでも、

兇悪無情の殺し屋でも、

弟子にしてしまう僕僕の肝っ玉の深さがいいよな。

ホモの青年が弟子に加われば、

きっと僕僕は美少年に変身してくれるでしょう、ハァハァハァ…。

老人萌えはいないせいか、

今巻も老人体には一度も変身しませんでした。

『薄妃の恋―僕僕先生』 ではツンデレライノベ寄りに軽くなりすぎた感があるが、

今巻は殺し屋視点から物語が始まるので、

『夕陽の梨―五代英雄伝』 や「飯綱颪―十六夜長屋日月抄」

のように格調高い重い文体で始まります。

これならおっさんも拒絶反応出ずにグッドだね。

まあ、ニート青年の王弁君が出てくると、

カタカナ語多用のライノベ風味になってしまうが、

小説は出だしのイメージが大切なので、

今回の試みは私はいいと思う。
http://d.hatena.ne.jp/miyabi-tale/20110602/1307022964

胡蝶の失くし物―僕僕先生

胡蝶の失くし物―僕僕先生