『はみだし生物学』 小松左京 新潮文庫

本書のベストセリフ

「善哉、蝸牛子よ、――泳ぎ、走り、はねるもののけたたましい成功にくらべ、

君の歩んだ道はぱっとしないものだったとはいえ、

それはアメーバ以来、否、さらに古く根源的な『地をはう生命』の

謙虚にして寡黙・質朴・平穏の伝統をうけつぐものだ。

Qui va piano va sano e lontano. を文字どおり『地で』行くものの姿だ。

面をあげてたけだけしくきらきらしい黄道にいどむよりは、

君はつつましく顔を伏せて、いぶし銀の光にみちた白道を歩め。

さすれば、露の世は須ゆにして、露とすぎさり、

文明動物のまがまがしく大げさないがみあいも、

君にとっては所詮、その角上の争いにしかすぎぬのであろう。

――かたつむり枝にはい…

――世はなべてこともなし」


蝸牛フェチの小松氏らしい科学解説書だが、

全ての科学ネタを文学と融合させたら大傑作になったろうが、

ほとんどは生物の教科書読んでるような味気ない文ばかりである。

さわりは日常エッセイで読み易くしてあるが、

ほとんどは無味乾燥な教科書文なので、

サイエンスエンタメとしては退屈。

SF作家らしいセンスオブワンダーな仮説も皆無。

メインテクニックはアナロジーばかりである。

小松氏は文系だから仕方ないが、

動物を擬人化するという科学的間違いは、

科学解説書として致命的なミス。

ティーヴン・ウェッブ の「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由」 が、

やはり科学解説書のオールタイム1だな。