『ブラック・アイス』 マイクル・コナリー 古沢嘉通 訳 扶桑社ミステリー文庫

ブラック・アイス (扶桑社ミステリー)

ブラック・アイス (扶桑社ミステリー)

本書のベストセリフ

テレサ      「暗い世界でたったひとり」

ハリー・ボッシュ「ときにはね。だれでもときにはひとりになるものさ」

テレサ      「ええ。でも、あなた、それを気にいっているでしょ?」

ハリー・ボッシュ「かならずしもいつもというわけじゃない」


ハリー・ボッシュシリーズ2作目。

1作目よりやや冗長でやや読み難い印象を持ったが、

これも本格推理小説として五つ星の出来である。

相変わらずミスデレクションの書き方が巧い。

私はまともや見事に騙されて真犯人に驚愕しました。

真犯人が明らかになるラスト100Pのどんでん返しが無くても、

ハードボイルド小説として上出来で、

普通のハードボイルドなら一番最後になるべき

見せ場になる大アクションシーンが、

結構早めに登場してしまうので、

これは、一作目同様ラストで大どんでん返しがあるか?

と期待させる展開も巧い。

ハードボイルドにおける銃撃戦は、

主人公が勝つのが当たり前なので、

余程作者が工夫しないと読んでいても白けるが、

一作目でアクションを推理小説のミスデレクションとして組み込み、

論理の面白さの必然で、

主人公が重傷を負い負けるアクションを書いた天才コナリーであるので、

今回は、銃による攻撃が通用しないトンデモない敵が伏兵として現れます。

普通の作家ならライバルにする殺し屋との、 直接対決もないのも凄い。

パターンを工夫したただのハードボイルドでなくて、

ハードボイルドを乗り越えた新たな地平へ到達しようとする、

コナリーの志の高さが堪能出来ます。

一作目を読んだ奴は、一作目のナニが何巻に再登場するか気になるところだが、

なんとこの二作目の冒頭、10P目で、 再登場はないと明示してしまう。

普通の作家ならネタ切れの時の保険として、 ナニを温存したがるものだが、

シリーズものの甘い構造に甘んじず、

自らに高いハードルを化すコナリーはかっちょええ!

ナニなど再登場させなくても、

コナリーには面白いネタはいくらでもあるということだね。

銃が通用しない敵は、

ホラー小説、モンスター小説、SF小説へのブレイクスルーを期待させる。

そして、今作は、ヘルマン・ヘッセの「荒野のオオカミ」ネタも登場します。

あらゆるジャンルを内包し、アウフヘーベンするのが、コナリーの文学である。

全ての本は、コナリーを深く楽しむ為に存在するのだ。

今回は、実蝿に放射線を当てて不妊にしてマーキングするというネタも出てくるので、

科学解説書も当然の教養として読むべし。

最新の科学ネタも使う現代ミステリだから、SFになるのも簡単。

コナリーは必ずSFも書くだろう。

もちろんハードボイルド小説として売られるだろうが。

で、今回の銃が通用しない敵との戦いがメチャかっちょええです。

相棒に常識では武器にならない物を渡されて、

疑問を持つことなくそれを持って戦場に赴く主人公がかっちょええ!

緊迫した戦場でのんびり解説している暇はない、

必ずそれの使い方に主人公は気付くと信じて、

一見無意味な物を渡す相棒とのやり取りが、

まさに男同士の友情を具現化していて素晴しい。

寡黙な素晴しい男達の友情に感動したい本物の男なら、 コナリーを読め!