『弓と竪琴』 オクタビオ・パス著 牛島信明訳 ちくま学芸文庫

弓と竪琴 (岩波文庫)

弓と竪琴 (岩波文庫)

アンドレ・ブルトンのお友達だから、シュルレアリスム小説と思い込んで買ったが、評論であった。

しかも、難しい批評用語が多用され、ほとんど改行なしで400Pを越える大作なので、

読み始めた頃は地獄であったが、詩の話題がメインではなくなり、

小説・絵画・音楽・演劇・映画等、全ての文化芸術に論点が発展し始めてから、どえりゃあ面白くなります。

メキシコに生まれ、世界一の美術大国のスペイン文化圏で育ったが、

パスの知性と教養はスペインネタには留まらず、

西洋も東洋もラテンアメリカも総括する、素晴らしい知的な記述が頻出する、現代知識人にとって必携の書。

短く言えば、全ての多様性を含有する一元論が真理だということである。

生きる希望が湧いてくる哲学書としても有効である。

わたしはあなたであり、あなたはわたしであり、

全ては無であり、無は全てであり、

生は死であり、死は生なのである。

生きるべきか死ぬべきかと二元論で考えては悩みは解決しませんぜ。

私たちは生き続けているし、死につつあるのです(藁

抽象的な哲学論議だけではこの本の魅力が伝わらないと思うので、具体的な例を挙げると、

スター制度で自らを固定した映画は、その面白さの可能性を100%発揮できないメディアである。

という指摘は鋭いと思いました。

パスは映画は百分の一の面白さしか発現されてないと思っているらしい。

ミーハー映画にキャーキャー言ってる腐女子は、

普通の知識人の1%の知性と教養しか持ってないということだね(藁

演劇ネタでは、ギリシャ演劇とイギリス演劇とスペイン演劇の違いが説明される。

庶民の視点に立ったスペイン演劇ビバである。

美術大国スペインは、演劇も世界一の、芸術大国であるのだ!

ゴヤの話題も勿論出ます。

文化芸術を語った本で、世界一の画家のゴヤの話題が出ないものは、三流ケテーイですな。

一流の文化芸術を語りたい人には必須の本である。

「弓と竪琴」というタイトルの元ネタは、ヘラクレイトスである。

ヘラクレイトスヘラクレスもヘトロドロスも区別付かない人には、

この本はとっつきにくいかもしれないが、本書は人類の叡智の結晶である。

人間に生まれたのに、この本を読まない人は、

原始のジャングルに帰りなさい。

本書の唯一の欠点はギャグが無いことであるが、

真面目な評論にギャグを期待するのは間違っているか(藁

でも、お友達のブルトンはギャグ評論書いたじゃん!

パスの他の著作ではギャグも爆裂してるといいなぁ。

知ってる人は教えてちょんまげ。