『ボトムズ』 ジョー・R・ランズデール 早川文庫

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

1930年代、それは女性の足首が見えても破廉恥とされた、

女性が淑女であり、男性が紳士であった古き良き時代。

治安官を父に持つ11歳の少年は、

森の中で女性の死体を発見する。

そしてその女性と同じように強姦され殺される女性が頻出する!

捨てろタイプなサイコパスシリアルキラーの物語かと思うが、

そうはならない。

被害者が黒人女性なので、

何人強姦されて殺されても事件にはならないのだ。

リンカーンが黒人奴隷解放宣言した直後だが、

白人にとっては、黒人になど人権はない時代。

黒人が殺されるのは、全て黒人に原因があるのである。

白人の罪が問われる事のない時代だが、

人種差別という概念を乗り越えていた主人公の父は捜査を開始する。

犯人が白人だったら無罪になるのは判っているが、

黒人の場合は逮捕して新たな犠牲者の発生は防ぐことが出来る。

最初の被害者を見つけたのは僕だ!ということで、

主人公の少年も捜査にしゃしゃりでる。

探偵小説の形を借りた少年の成長物語。

人種差別問題をテーマにした時代小説。

本格推理小説としては、星二つ。

真犯人に至る手掛かりがあからさますぎるw

煙幕はれよww

「風の影」+「大草原の小さな家」/2と言っては褒めすぎだな。

やや理想的すぎるが主人公の一家は魅力的。

純文学的な描写や人物が好きな人には楽しめるかもしれない。

残虐非道の大量殺人鬼と少年が直接対決する

ラストの評価は分かれるかもしれない。

ご都合主義でカタルシスに欠けるかもしれないが、

少年が真犯人を殺せなかったことは評価していいと思う。

知恵を巡らせて子供が大人に勝つシーンもそれなりに面白いだろうが、

物理的に勝てるとしても、

心理的に殺人は出来ないと悟る少年のキャラは魅力的。

最愛の妹が犯人にいたずらされ、

殺される直前の現場に駆けつけた少年であるが、

妹が泣き叫んで「犯人を殺して!」と哀願しても、

主人公の少年は犯人を殺す選択肢は捨て、

妹を連れて逃げる(それは犯人を逃がすことでもある)道を選ぶ。

愛する者が傷つけられたからと言って、

暴力に暴力で立ち向かうのはポンポコピーである。

読書好きな理知的な少年にハァハァしたい理知的な男は、

これを読め!

ただし、ランズデールはどれもこれも黒人問題がテーマだそうで、

全著作は読まなくていい感じ。

ちなみにこの小説のボトムズとは舞台になる「低湿地」という意味ざんす。

どん底」はあまり気にしなくてもいいざんす。