『予告された殺人の記録』G・ガルシア=マルケス 野谷文昭訳 新潮文庫

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

ジェームズ・アンソール の絵を表紙にする新潮のセンスにビバ!

花飾りの帽子をかぶったアンソールの自画像が、

女装趣味のあった被害者で、

仮面の男達が村人達ですな。

マルケスの本質はギャグだと看破した私にとっては、

この作品のギャグの切れ味は、

短編集『エレンディラ』に劣ってイマイチだったが、

神父やキリスト教を笑いの対象にしているのはよかったです。

内容は禁じ手に挑戦したルポルタージュ風の推理小説だが、

冒頭30Pほどで、犯人は明かされてしまう。

27年前の殺人事件をマルケス自身が"わたし"として捜査した記録である。

犯人はマルケスの従兄弟である。

被害者はマルケスの親友。

犯人側、被害者側にも関係の深いマルケスなので、

小説ではなくて、純粋たるルポルタージュとして発表するつもりだったが、

被害者のみの視点ならでかい面できるが、

加害者にも関係の深いマルケスなので、

架空の小説として発表せざるをえなかったらしい。

裁判所は小説と信じなくて、

これを発表した後のマルケスは、

明らかにされてない真実を知っていると疑われて、

裁判所に召喚されたそうであるw

推理小説としての読みどころは、

犯人も被害者も動機も殺害方法も明示したあとで、

予告されていた殺人が何故防げなかったのか?

ということだが、

その答えは禁じ手で説明しているので、

本格推理小説としてはもちろん駄作であるが、

文学として犯人側に感情移入出来る素晴しい作品である。

犯人が犯行を予告したのは、

殺人したくなかったからである。

村の人々に止めて欲しかったので、

一生懸命予告したのである。

殺人者になってしまう犯人像が、

見事な社会批判になっている優れた文学である。

二人の男が協力して殺人するという話は、

J・L・ボルヘス も書いているが、

単純に殺人者を美化してる糞ボルヘス に比べると、

マルケスの文学的深みがよく理解出来る傑作。

http://ameblo.jp/nanika-possible/entry-10025048926.html