『天使のゲーム』 カルロス・ルイス・サフォン 集英社文庫
上巻のベストセリフ
「副詞をふんだんにつかったり、やたらに形容詞をつけたりするのは、倒錯者か、ビタミン不足の人間のすることだ」
文学的過剰を否定した素晴しいリーダビリティの文学。スペイン版『二流小説家』←褒めてます。
綺麗なねーちゃんが活躍する冒険ミステリ作家としてデビューした"ぼく"は怪しい出版社から大金のオファーを受ける。
「新たな宗教の聖書となる啓示の書を書いて欲しい」
宗教に拘る怪しい出版社の過去には複数の殺人事件の影が?
宗教的傑作を書くふりしながら、"ぼく"は女子高生の押しかけパートナーと事件に挑む。
超期待したのだが…。
下巻のベストセリフ
「虚無主義者なんていませんよ。あれはポーズであって、いわゆる主義ではない。虚無主義者の睾丸のしたに、ろうそくの火でもおいてごらんなさい。連中がたちまち実存の光を見るのが、よくわかりますから」
哲学下ネタギャグも飛び出して好みなんだが、テンポが遅くて読むのに時間がかかった。
ミステリとしては語り手の私の信頼性に疑問が残る。
鮮やかな解決というより、ホラーのように有耶無耶のまま終わった感じ。
四部作の二作目なので、謎を残すのは有りだが、一作目の『風の影』に比較するとだいぶ落ちる印象を持った。
三部四部の大絶賛の声が聞こえてきてから読んでも遅くないと思う。
『風の影』読んでる人は絶対すぐ読んでしまうだろうが、期待しすぎるなよw
- 作者: カルロス・ルイス・サフォン,木村裕美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/07/20
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: カルロス・ルイス・サフォン,木村裕美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/07/20
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『面白くて眠れなくなる数学』 桜井進 PHP研究所
四色問題等の有名なネタが多いが、著者の数学への愛が感じられる良書。数学は音楽のように美しくて面白いものであると爽やかに教えてくれる良書。最新ネタは超複素数八元数まで出て来ます。十六元数は成立しない。
数学史の正史では小物の悪役のクロネッカーさえ美しい詩人のように描写されてます。科学界最強のヒーローアインシュタインに対しても、無条件に賛美するのではなくて、数学が苦手だったとはっきり指摘しており、著者のバランス感覚は素晴しい!
数学と相性の良い物理学のネタもけっこうあります。
サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』で使い走りのおっさんのように描写されていた、フーリエのフーリエ変換の素晴しさがよく判るので、フーリエファンは必読。
数学嫌いが多いのは学校での数学教育のやり方が悪いと著者は主張し、
改善策も提示しておられます。
数学記号を中途半端な日本語に訳すので解りづらくなるという著者の分析には納得しました。
著者はサイエンスライターではなくてサイエンスナビゲーターと名乗ってます。
自己主張が大事ニダという、自己顕示欲の塊の作家精神ではなくて、
私の為ではなくて、貴方の為の指標の本というスタンスが感じられる、
爽やかな、万人に勧められる良書です。
- 作者: 桜井進
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2010/07/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『史上最大の発明アルゴリズム―現代社会を造りあげた根本原理』 デイヴィッド・バーリンスキ 早川文庫NF
数学解説本かと思ったら、著者の短編小説も埋まってるトンデモ本。
小説が挟まる構成は、ダグラス・R・ホフスタッターの『ゲーデル,エッシャー,バッハ―あるいは不思議の環』もそうであり、小説仕立てで数学解説するのも手ではあるが、ダグラス・R・ホフスタッターのような優れたギャグセンスがこの著者にはなくて、マジキチで自己陶酔してトンデモ理論を開陳しておられます。
単純な物理法則と偶然から人間精神のような複雑なものは発生するわけがないそうです。ポール・デイヴィスと同様の複雑系賛美のアッチ系のトンデモ本です。
ゲーデル数の解説は判り易いし、ゲーデルのネタは帰納的関数、それを別の面から見たチャーチのλ関数も、チューリングの万能チューリングマシンで再現出来る。
ゲーデルよりチャーチよりチューリングの方が頭が良いと分析してるまともな文もあるんだが、
キスシーンやベッドシーンのある小説が唐突に出てくるので白けて、
脱力してゲームに逃げてしまい読むのに8日もかかりました。
ボルヘス=チューリングというトンデモ説も出て来るし、
理系の人より文系の人の為の本ですな。
数学四大奇書というカテゴリーが作られたら真っ先に候補に入るであろう本。
史上最大の発明アルゴリズム: 現代社会を造りあげた根本原理(ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) (ハヤカワ文庫 NF 381)
- 作者: デイヴィッド・バーリンスキ,David Berlinski,林大
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/04/30
- メディア: 文庫
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『自己愛な人たち』 春日武彦 講談社現代新書
古臭い男性ジェンダーを超越している素晴しい春日武彦先生の、自己愛に囚われたおかしな人についての痛快毒舌エッセイ。自分の患者だけでなく、小説家や画家もネタにしているが、有名画家や教科書に載るクラスの文豪に対してもボロクソ言っていて面白い。
他者に批判的な人は心に余裕のない精神的欠陥者だという説もありうるが、春日先生はディーン・クーンツ同様に自分はキ○ガイかもしれないと真摯に考察し、子供を作らない人生を選択したケジメのある人である。
男性を超越どころか、子供を残さないという、生命体の常識も超越している春日先生は私の理想ですら〜。
ジェンダーを乗り越える為には、それなりのエピソードがあった筈だが、
本書では春日先生が少年時代に女々しいと苛められた事件が開陳されています。
で、現在の春日先生の夢は宝塚の男役になることだそうです。
宝塚演劇学校って女子しか入学不可能では?
まず、性転換手術を受けて戸籍も女にする必要があるな(笑)
本当のところは生まれ変わりがあるとしても春日先生は人間には成りたくないそうです。
人間と付き合うのが嫌い。
しかし、科学者として人間を観察するのが大好きというのが春日先生である。
深読みの天才、春日先生の人間観察力に酔いしれろ!
- 作者: 春日武彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/06/15
- メディア: 新書
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『プロフェッショナル』 ロバート・B・パーカー 早川ミステリ文庫
スペンサーシリーズ37作目。
本書のベストセリフ
「マサチューセッツ州はゲイ問題に関しては昔から寛容だった」
「彼女を大切に思ってる。私たちはすべてを共有する、セックス以外。これからの生涯、ずっと彼女といたい」
ホモの男性とヘテロの女性の夫婦愛に感動!
21世紀の小説としてシェアリング婚の話題も出て来て、サクサク読める軽いハードボイルドだが、時代の進歩に合わせてスペンサーも成長し続けるのが良い。
デビュー時は薄汚いロリコン野郎だったスペンサーの老熟振りが素晴しい!
今回一人も悪人を殺さない。美人の依頼人に強請り屋を殺してと頼まれても拒否。
異性の為に殺人する者は古臭い時代遅れの人格障害者ざんす。
今回の敵は人妻専門の強請り屋(夫に不倫を知られたくなければ金寄越せ)だが、
趣味で人妻誘惑していたが、悪女に金になると唆され強請り屋に転落。
金より女の方が好きな強請り屋なので、
スペンサーに諭されてあっさり強請り屋を辞める。
が、それから元強請り屋の周りで連続殺人事件が!
元強請り屋との間に奇妙な友情が芽生えたスペンサーは、
依頼人もいないのに趣味で捜査を開始。
敵と思われた強請り屋が味方サイドにシフトしていくのがさすがパーカー。
単純な話に思わせてちゃんと読ませる捻りがあるのが、パーカーのプロの技。
パーカー死去につきスペンサーシリーズは続きをエース・アトキンスが書くそうだが、
1970年生まれの若僧にパーカーの円熟の技が再現できるか不安だ。
アトキンス版スペンサーは1作読んで只のエピゴーネンと判断したらもちろんスペンサーシリーズからは卒業します。
ホーク×スペンサーのホモ同人誌でも読むか(笑)
プロフェッショナル〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (スペンサー・シリーズ)
- 作者: ロバート・B・パーカー,加賀山卓朗
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/02/05
- メディア: 文庫
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『奇妙な情熱にかられて ―ミニチュア、境界線、贋物、蒐集』 春日武彦 集英社新書
奇妙な物を蒐集する奇想を論考し、生活感のリアリティを高らかに謳う人間賛歌の傑作。モナリザより、コルゲンコーワの店頭人形の方に熱いメッセージを感じる人達が存在する意義を照射する芸術論人間論の傑作。
健全な人間よりキ○ガイの方が奥深くて面白いという視点に共感。
本書で春日先生は自動車運転免許を持ってない事を告白しておられるが、春日先生は古臭いジェンダー観を超越している素晴しい人である。
俺は人々を救うお医者様だと偉ぶらずに、B級の存在、マイナリティへの愛が溢れる春日先生の生きる姿勢は素晴しい。
春日先生は私の理想の人物ですぅ、(;´Д`)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア / \ ア / \ ア
生きるセンスの良い人間として鶴見俊輔(モナリザより云々は鶴見の言葉)や、
岡田斗司夫に触れているから二人のファンの方は必読。
俳句オタクも必読。
ミニチュアコレクションの話題が縮める文化の話題になり、
短詩の話題になり、世界一短い究極の俳句を求める運動を紹介する章は大爆笑出来ます。
五七五もまだ長い!三五三にしよう!!
いや、一一が究極だ!!!
笑えるが、真面目に暴走する奇想家の存在に、
暖かい眼差しを投げかける春日先生はホント魅力的。
春日先生は本当は狂気に憧れているのではないかとも思いました。
奇妙な情熱にかられて ―ミニチュア、境界線、贋物、蒐集 (集英社新書)
- 作者: 春日武彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/12/16
- メディア: 新書
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『ミステリアス・ショーケース』 デイヴィッド・ゴードン他 早川ポケミス
2011年に人気大爆発した現代アメリカミステリ作家達の最新作を集めた豪勢なアンソロジー。純文学寄りのノワールからエンタメに回帰しつつある最新事情に触れ感動して下さい。エンタメの妄想力の凄さに驚愕しろ!
本格推理と言うよりは純文学寄りでトリックの切れ味が凄いというより描写を楽しむタイプの作品ばかりだが、全てが描写に凝り過ぎの純文学ではなくて、エンタメとして面白く妄想力が爆発している傑作揃い。
このアンソロジーに収録されている作家を一人も知らない人が読んだら、現代アメリカミステリの新たな地平に安心するだろう。
最近のミステリは純文学寄りのノワールが多いが、この本に収録されている作家達は、エンタメ心を忘れていないプロの素晴しい作家ばかりである。
作家になってモテモテ人生を妄想してる人はプロの妄想力に驚愕せよ!
「ぼくがしようとしてきたこと」「クイーンズのヴァンパイア」(デイヴィッド・ゴードン)
「この場所と黄海のあいだ」(ニック・ピゾラット)
「彼の両手がずっとまっていたもの」(トム・フランクリン&ベス・アン・フェンリイ)
「悪魔がオレホヴォにやってくる」(デイヴィッド・ベニオフ)
「四人目の空席」(スティーヴ・ハミルトン)
「彼女がくれたもの」(トマス・H・クック)
「ライラックの香り」(ダグ・アリン)
- 作者: デイヴィッド・ゴードン,ニック・ピゾラット,トム・フランクリン,スティーヴ・ハミルトン,ダグ・アリン,トマス・H・クック,デイヴィッド・ベニオフ,ベス・アン・フェンリイ,早川書房編集部,田口俊樹,伏見威蕃,越前敏弥,東野さやか,青木千鶴,冨永和子,府川由美恵
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/03/09
- メディア: 単行本
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